【マーメイドS】斤量、展開、馬場、すべてを味方に! 好騎乗光った藤懸貴志、念願の重賞V
勝木淳
ⒸSPAIA
阪神に強い牝馬を送る血統×キズナ
シーズン末期の牝馬限定ハンデ重賞とあって、毎年のように波乱決着が待つマーメイドS。その決まり手は極端で、追い込み決着もあれば、前残りもある。いわば展開を味方につけた馬が勝利をつかむ競馬であり、展開を読み切ることができれば的中にぐっと近づける。今年は逃げ馬不在。上位人気、近況がいい馬にも先行型が少なく、スローペースになる公算が高かった。
こうした戦況で最内枠を引いたシャムロックヒル(50キロ)に乗る藤懸貴志騎手の腹は決まっていた。ハナを奪う素振りを見せれば、他馬は絡みに来ない。1コーナーで外から川田将雅騎手のサンクテュエールが番手をとったのも大きかった。ペース判断に長けた騎手ゆえにシャムロックヒルの流れに便乗、後ろに余計な動きをさせないからだ。
12秒台が続く淡白な流れに持ち込み、馬群はひと塊、シャドウディーヴァ、カセドラルベルらは馬群で揉まれる形に。1000m通過1分0秒8のマイペースを決めたシャムロックヒルは残り600mからスパート。藤懸騎手のアクションは4コーナーから大きかったが、これは瞬時に加速できないからこそで、手応えは悪くなかったとレース後のコメントに残している。この手応えに後ろは読み違えたか、ソフトフルートら先行集団の追い上げは厳しくなく、番手にいたサンクテュエールが早めに余力を失ったことも大きかった。
内を追ってきたシャドウディーヴァに並ばれてから見せたしぶとさは、斤量差がかなり影響したようで、味方にできるものをすべて利用した勝利だった。前走は1月中京の3勝クラス寿Sでの1.6差14着。鮮やかな変わり身はマーメイドSらしい。
母ララアの産駒は、19年のこのレースを勝ったサラス、現オープンのセラピアなど阪神に強い牝馬が多い。キズナ産駒は、イメージより泥臭く、逆境を跳ね返す強さがセールスポイント。父の現役時代も日本ダービーこそ鮮やかだったが、戦歴を振り返ると、決して軽さを押し出したものではなかった。シャムロックヒルが最後の急坂で発揮した二枚腰は、父の産駒特有のものだ。
藤懸騎手はデビュー11年目で待望の重賞V。オークスではGⅠ初騎乗ながらハギノピリナで16番人気3着と2021年上半期に目立った若手騎手のひとり。ハギノピリナもキズナ産駒であり、同産駒特有のしぶとさと手が合うようだ。
ソフトフルートの買い時は
2着は大外を追い込んだクラヴェル。こちらも前走は3勝クラスの中京芝2000mシドニーT0.2差4着と3勝クラス敗退組。同レース2着のアカイイトは直前の10R垂水Sを勝利。通用の余地はあった。だが、普通は勝ったソフトフルートを評価するわけで、マーメイドSはひねりが必要だった。
アカイイトも勝たせた横山典弘騎手はベテランながら51キロで騎乗。同騎手の51キロ騎乗は19年2回、20年3回のレアケースで意欲を買うべきだったか。クラヴェルは後方待機、緩い流れでも急かすことなく、最後の直線まで仕掛けを待ち、直線一本の競馬にかけた。これもマーメイドSでハマるパターンのひとつ。軽量を最大限、味方につけた競馬だった。
クラヴェルを前走で負かしたソフトフルートは1番人気8着。好走した秋華賞やシドニーTは早めにペースアップして、最後までラップが落ち込まない持続力勝負。緩い流れから後半600m勝負は苦手なパターンだった。横山和生騎手は流れを読んで、普段とは異なる先行を選択したまではよかったが、先に行かせると最後に弾けないタイプのようだ。今回のように人気先行型で、持続力勝負を溜めてナンボという競馬では今後も買いどころが難しい。
6番人気3着シャドウディーヴァは前半、揉まれながらも上手く立ち回った。シャムロックヒルに並ぶところで真っ直ぐ走れなかったのは痛かったが、斤量差も響いた。牡馬相手の重賞でも戦える馬で、今後も引き続き注目してみたい。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース公式コメンテーターを務める。
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