【エプソムC】現5歳世代ヴェロックス、同期ダノンキングリーに続けるか 「復活を遂げた馬」といえば?

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ダノンキングリー復活の勝利

先週の安田記念はドラマだった。断然人気に支持されたグランアレグリアが馬群でもがく中、大外に持ち出したダノンキングリーがナタの切れ味で伸び、4頭の叩き合いを制して優勝。前走の天皇賞(秋)で最下位に敗れた屈辱を見事に晴らし、三嶋牧場悲願の初GⅠ制覇を飾った。21世紀初頭から安田記念で復活を果たした馬は多かったが、ダノンキングリーもその系譜に名を連ねることとなった

現5歳世代はダノンキングリーに限らず、不思議と一時期不振に陥りながらも今年に入って復調気配を見せている馬が多い。香港GⅠを勝ったラヴズオンリーユー、4歳シーズンの大半を休養に充てたワールドプレミア、GⅠ馬以外でもケイデンスコール、ディアンドル、今週の函館SSに出走するコントラチェックなど。昨年の高松宮記念で1位入線したクリノガウディーも現在2連勝中だ。

世代としての中央重賞勝利数も昨年の23に対して、今年は現時点で早くも19を数えている。前述したケイデンスコールやコントラチェックが復活勝利を人気薄で挙げているため、単勝回収率も124%に達する。振るわなかった昨年から「復活の5歳世代」と呼んでもいい。そんな現5歳世代の牡馬クラシック戦線を皆勤、全てで馬券に絡んだが、その後苦戦を強いられているヴェロックスがエプソムCに出走する。同期のバトンを受けての好走を期待したい。

今週のコラムでは「実績馬の復活」をテーマに、長らく不振にあえぎながら復活を果たした2頭を紹介していく。

3本のボルト、不屈の勝負根性 アドマイヤコジーン

ダノンキングリーと同じ、安田記念での復活というワードで最初に思い浮かぶのはアドマイヤコジーン。母母に英1000ギニーを制したミセスマカディーを持つ由緒正しい血統で、未勝利戦から連勝して臨んだ1998年の朝日杯FSではエイシンキャメロンとの一騎打ちを制し、2歳王者の称号を手にした。

3歳シーズンもマイル界を引っ張る存在としての期待が集まったが、年明け早々に右トモに骨折が判明。ボルトを埋め込む手術が必要なほどの重傷だった。悪いことは重なるもので、復帰を目指す最中には左トモも痛め、ようやくターフに戻ってきたのは2000年の7月。芝の1200m~2000m、ダートの1400mと様々な舞台に矛先を向け、ブランクを埋めようと懸命に走るも、勝利を挙げられないまま2001年シーズンを終える。

復活の狼煙をあげたのは2002年。後藤浩輝騎手に代わって迎えた初戦の東京新聞杯を単勝10番人気で勝つと、返す刀で阪急杯を快勝。続くGⅠ高松宮記念でもショウナンカンプの2着に好走し、適距離であるマイルの安田記念に駒を進めてきた。

香港のGⅠを連勝したエイシンプレストンが1番人気に推される中、勢いある後輩たちを前に、前走のGⅠ2着がありながら7番人気。しかし、3本のボルトとともに不屈の闘志を埋め込まれた芦毛の6歳馬は強かった。45.9-47.4という厳しい前傾ラップを番手で進み、迫りくるダンツフレームを朝日杯でも見せた驚異的な勝負根性で退け優勝。デビュー11年目、54回目の挑戦で初のGⅠタイトルを手にした殊勲のジョッキーはウイニングランで涙を何度もぬぐった。

暮れの香港マイル4着を最後に引退し、同年の最優秀短距離馬の栄誉とともに種牡馬入り。代表産駒にはスプリンターズS覇者、天才少女アストンマーチャンと、父が2着だった時と同じ新潟開催を、同じ6歳時に勝った白き老雄スノードラゴンがいる。片や回転のいいピッチ走法、片や長い競走寿命と、父の特性をよく受け継いだ2頭だった。

クラシック同期の絆 ロゴタイプ

安田記念での復活といえばロゴタイプも忘れがたい。タレント揃いだった2013年クラシック世代の中でも屈指の個性派である。

父ローエングリンがそもそも異端児だった。その父シングスピール、母カーリングという世界的良血に裏打ちされた確かな能力を持ちながら、皐月賞もダービーも賞金不足で出走すら叶わず、ならばと3歳馬の身で殴り込みをかけた宝塚記念3着。その後もマイルから中距離の重賞に名を連ね続け、8歳シーズンまでほぼ休まずタフに48戦を戦い抜いた。ムーラン・ド・ロンシャン賞2着など惜しくもGⅠタイトルには手が届かなかったが、血統背景から種牡馬入りを果たすこととなった。

スターバレリーナの子、ステレオタイプを母に生まれたのがロゴタイプ。新馬戦を勝ちながら続く3戦を勝ち切れず、11月末のベゴニア賞をレコード勝ちして朝日杯FSに出走。キャリア5戦での参戦は出走メンバー中最多と、父の晩年を最初からなぞるかのごとく泥臭いローテーションだった。1番人気だったのはスマートに無傷の3戦3勝、うち重賞2勝で迎えた藤沢和雄×横山典弘のコディーノ。単勝1.3倍、焦点は相手探しと見られていた。

レースは前半3F33.9秒の超ハイペースで進み、ロゴタイプは先行集団を見る形で追走。直線早め抜け出しから猛追するコディーノをクビ差しのいで勝ってしまった。父があれだけ夢に見たGⅠタイトルをあっさり手にし、一躍皐月賞の最有力候補に躍り出た。

年明け初戦のスプリングSを勝ち、クラシック初戦の皐月賞でもエピファネイアを倒した。レース運びの自在性、しぶとさ故に2400mへの対応はさほど不安視されず、ナリタブライアンのように朝日杯+クラシック春二冠を目指したロゴタイプだったが、本当のライバルは皐月賞組ではなかった。毎日杯を差し切ってから完全に馬が変わったキズナである。平成のダービー史を彩る武豊騎手の美しい差し切り勝ちを前に、3着争いに加わっての僅差5着がやっとだった。

府中で苦汁を舐めて以降、長い長いロゴタイプの苦闘が始まる。まず負けないだろうと見られていた札幌記念を惨敗すると、休養を挟んだ4歳シーズンは5戦して連対もできなかった。キズナがフランスで英ダービー馬を倒し、凱旋門賞でも健闘、無限の夢を乗せた存在となり、エピファネイアが菊花賞でようやくクラシックホースの称号を得、史上最高メンバーと謳われたジャパンCを終始かかりながら暴力的に圧勝していた頃、かつての3強の一角は出口の見えないトンネルの中でひたすらにもがいていた。

同期2頭のクラシックホースが故障に泣き、ターフに別れを告げた2015年、ようやくロゴタイプが復調の兆しを見せる。年初の中山金杯と初春の中山記念で連対し、GⅠも着外ながら僅差の好走。さらに年が変わって2016年、ダービー卿CTを2着にまとめたロゴタイプは安田記念を次走に選択する。父ローエングリンが4度走り、4度後続に飲み込まれた因縁のレースである。

朝日杯FSにコディーノがいたように、安田記念にはモーリスがいた。ロゴタイプが皐月賞を勝った年にデビューしたこの馬は、堀宣行厩舎に転厩してから怒涛の7連勝、うちGⅠ4連勝中だった。厚く鋭い天下一品の末脚は数多のライバルを寄せ付けず、絶対王者としての座を揺るぎないものとしていた。

しかし、ロゴタイプはこういう大本命馬がいる時に大仕事をする馬だった。前半5F59.1秒ながら楽に先手を取り切り、番手で追走するモーリスを早めのスパートで突き放していく。直線の525.9m、3年2か月ぶりに見えた勝利の光に向けて、田辺裕信騎手の激励に応え、ロゴタイプはラチ沿いを激走した。モーリスより速い上がり3F33.9秒、後続が何もできない理想的なレース運びでゴール。キズナが、エピファネイアが最も輝き、ローエングリンがどうしても勝ちたかった東京の舞台で、間違いなく史上最強クラスのマイラーだったモーリスを倒してみせたのである。

翌年の安田記念は一転、前半5F57.1秒というハイペースの地力勝負を挑み、5着までが軒並み差し馬だったにもかかわらず2着。これが引退レースとは思えないほどの凄まじく強いレース運びをしてみせた。30戦6勝、うちGⅠ3勝という実績以上に語りたいエピソードの多い馬。今年からデビューする産駒の中に、サイアーラインをつなぐ馬が出ることを祈っている。

《ライタープロフィール》
東大ホースメンクラブ
約30年にわたる伝統をもつ東京大学の競馬サークル。現役東大生が日夜さまざまな角度から競馬を研究している。現在「東大ホースメンクラブの愉快な仲間たちのブログ」で予想を公開中。


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