【日本ダービー】新時代を切り開いたシャフリヤール! 激闘から見えてくる競馬の未来とは

勝木淳

2021年日本ダービーのレース結果ⒸSPAIA

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データを打ち破ったシャフリヤール

まず日本ダービーが18頭立てになって以来、はじめてフルゲートに満たない17頭立てになった。かつては賞金面で出場できるから登録したという馬もいたが、無理に使ってもと馬の将来を考える関係者が増えたということだろうか。

皐月賞馬エフフォーリアが1番人気に推されるのは当然ながら、2番人気が桜花賞2着サトノレイナス、そして3、4番人気が前走毎日杯だったグレートマジシャン、シャフリヤール。皐月賞組より別路線組が露骨に上位に支持された。

事前図式は明らかに例年の日本ダービーと異なった。昨年来、これまでの常識が破られ、新たな価値観が生まれるという世情を映したような、新感覚の日本ダービーだった。

勝ったのは前走毎日杯1着シャフリヤール。毎日杯出走馬のダービー馬といえばキングカメハメハ、ディープスカイ、キズナがいるが、前走が毎日杯だった馬はシャフリヤールが史上初。また86年以降、騎手が乗り替わりだった場合【0-9-9-178】で未勝利。福永祐一騎手は前走だけ騎乗しなかった形だが、乗り替わりで日本ダービーを勝った。新感覚の日本ダービー、その結末は様々なデータを塗りかえた。

エフフォーリアの皐月賞との違いとは

さて、まずは視点をエフフォーリアと横山武史騎手に移してみよう。木曜日に決まった枠は1枠1番。この時点で皐月賞と同じようにインコースで脚を溜めるというレースプランは決まったのではないか。

実際、競馬は皐月賞と同じような展開になった。エフフォーリアはスタートをしっかり決め、馬を促し、好位のポケットを主張。外枠のバスラットレオンとタイセイホルダーがやってきて、フタをする形になり、折り合いをつける。前半1000mは12.2-10.6-12.0-13.0-12.3で1分0秒3、馬場を考えればゆったりした流れ。バスラットレオンが後続を引きつけるような逃げを打ち、馬群が密集したのは若干誤算だったか。

このゆったりした流れを打破すべく後ろにいた武豊騎手、デムーロ騎手が乗るディープモンスターとアドマイヤハダルが残り1000m標識付近で外目を動いた。これに前にいたサトノレイナスらが反応して、早めに加速する形になった。

後半1400mは12.4-12.8-11.7-11.4-11.5-10.8-11.6。残り1200~1000mの12.8で名手二人は動くことを選択した。インコースにいたエフフォーリアは順位を下げることになったが、外目の馬たちが早めにペースをあげてくれたことで脚を溜められた。

そして4コーナーを上手に回り、最短距離を通って直線に向いた。馬場は真ん中より外が伸びる。早めに動いた組はみんな外を狙う。自然と内側にスペースができる。エフフォーリアは迷わずそこに飛び込んで、一気に抜ける。その地点のラップ10.8で勝負をつけにいく。ここまでは皐月賞と寸分違わない完璧な競馬だった。

だが、中山より東京の直線は長い。残り1000mから加速に転じる究極の持続力勝負。ほんのわずかであったが、トップスピードに乗るまでが早かったか。そして皐月賞にはいなかった、エフフォーリアのトップスピードに抵抗できる馬、シャフリヤールがいた。ゴール板に飛び込んだときだけシャフリヤールはエフフォーリアを捕らえた。悔しいハナ差は、横山武史騎手が日本ダービーを勝つための宿題になった。

持続力に瞬発力を備えたシャフリヤール

シャフリヤールは苦しい競馬だった。道中は左斜め前にエフフォーリアがおり、ターゲットにできる位置だったが、緩い流れで密集する馬群のなか、ワンダフルタウンに外を塞がれ、じっとせざるを得なかった。

残り1000mからの加速に対抗したかったが、今度はグレートマジシャンに外を阻まれ、いいところに出せない。手応えを失ったアドマイヤハダルをはじき、外に出ようとするも、またもグレートマジシャンが外にいて、目前にサトノレイナス。うかつに突っ込めば、閉められる。そのときエフフォーリアが外へ行き、目の前に進路ができる。

レース後、福永祐一騎手は「冷静と情熱のあいだ」と自身の心境を表現したが、かなり冷静にシャフリヤールが全開に走れるように導いてみせた。最後の200m、エフフォーリアを追うシャフリヤールの切れ味は何度見直しても圧巻。まるで他馬とはスピードが違った。

全兄アルアインは皐月賞や大阪杯を勝った小回り巧者だが、こちらは父ディープインパクト譲りの切れ味を備える。これで父は日本ダービー7勝、歴代種牡馬単独トップに立った。

血統といえば、エフフォーリアの父エピファネイア、父の父シンボリクリスエス、母の父ハーツクライいずれも日本ダービー2着で本馬も2着。そこまで踏襲するとは。さらに父エピファネイアの日本ダービー2着時の鞍上には福永騎手がいた。日本ダービーを巡る新たな物語がここにあった。

掛け値なしに価値ある一戦

3着争いはステラヴェローチェがグレートマジシャンとサトノレイナスを退けた。皐月賞3着馬が9番人気という低評価を自力で覆してみせた。重賞を勝った東京に替わり、まして持続力勝負になったことも向いた。春のクラシック2戦とも3着は力の証。秋はさらなる距離延長で可能性が広がる。

4着グレートマジシャンはシャフリヤールと同じキャリア3戦、これも健闘。シャフリヤールをうまく押し込めたが、最後は瞬発力の差が出た。母ナイトマジックは独オークス馬だが、古馬になってバーデン大賞を勝ったように成長力があるドイツ血統の典型。まだまだ強くなる。

5着は2番人気サトノレイナス。ディープモンスターらの仕掛けに反応、早めに動きすぎた。日本ダービーの4コーナー先頭は牝馬には厳しすぎたようで、最後は外にもたれ気味になった。牝馬同士なら秋は勝ち負けだろう。

フルゲートに満たなかったことで、物議を醸したが、日本ダービーはやはり掛け値なしに素晴らしいレースだった。最後は1、2着と3、4、5着は写真判定。途中で動いたディープモンスターやアドマイヤハダルなど、みんなが第88代日本ダービー馬の栄光をつかもうとした死闘だった。


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース公式コメンテーターを務める。

2021年日本ダービーのレース展開インフォグラフィックⒸSPAIA



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