【オークス】逆転のオークス! ソダシとユーバーレーベン、結果を分けたものとは?

勝木淳

2021年オークスのレース結果ⒸSPAIA

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今年のオークス、カギは個性の見極め

「競馬は個性の戦いだ」
この春亡くなった岡田繁幸氏は競馬ファンに再三こう主張してきた。見抜くべきは馬の個性であり、考えるべきは個性に合った条件だと。どんな条件でも勝てるスーパーホースはそうはいない。競馬の予想は馬の個性を推理するところからはじまる。

クラシックの難しさは進むべき道が予め決められているところにある。馬の個性と合わない条件であっても出走し、それを乗り越えて勝たなければいけない。肉体面だけではなく、精神面のタフさも求められる。

オークスを勝ったユーバーレーベンは、ここまで己の個性に合わない条件に跳ね返され続けてきた。不良馬場だった新馬戦とハイペースの札幌2歳Sがユーバーレーベンの個性にいくらか合致した舞台だっただろうか。マイル戦もスローペースも個性に反する舞台だった。それでも戦わないとクラシックは勝てない。ユーバーレーベンは3戦目のアルテミスS9着を除き、合わない条件でも3着内を外さなかった。厳しい条件であっても崩れず、自分の競馬に徹して結果を出し続けた。

3歳牝馬には過酷な東京芝2400mはスローペースであっても、みんな苦しいので極端に速い上がり時計にならない。広いコースで適度に時計がかかる中距離戦、ユーバーレーベンがもっとも個性を発揮できる舞台だった。

ユーバーレーベンにとって最大の課題はスタート。出遅れて馬群にとりつくために脚を使っては厳しい。オークスでは見事にゲートを決め、下げる形で中団の後ろに収まった。前半はインコースで脚を溜め、向正面で早めに外に出す。デムーロ騎手はユーバーレーベンの個性を正確に把握していた。距離ロスがあってものびのび走れる外目を進めば、この馬は最後に脚を使う。長い直線、最後の600mは極端に速くない34.9。ユーバーレーベンが輝ける舞台がようやく巡ってきた。

ビッグレッドファームにとって悲願のクラシック制覇。父ゴールドシップ、母マイネテレジア、母の父ロージズインメイ、母の母マイネヌーヴェル、その母はニュージーランドから岡田繁幸氏が発掘したマイネプリテンダー。みんな同氏が大切にしてきた血ばかり。ユーバーレーベンはまさに岡田繁幸氏の執念の結晶である。

リズムを崩したソダシ

1番人気8着ソダシはユーバーレーベンと似た部分とそうでない個性を持つ馬。最後の600mタイムが速い競馬よりロングスパート型である点は似ているが、マイル戦で先行できるスピードとその持続力がオークスで仇になった。

スタート直後にペースが落ちないマイル戦では流れに乗れるが、2400m戦では最初のコーナーでラップが一気に落ちる。2コーナーで頭をあげていたようにペースダウンに馬が戸惑った。そこで崩したリズムを立て直すために体力を使ってしまったため、ソダシの強みである最後の苦しいところでのひと伸びがなかった。

しかし、白毛伝説はこれで終わりではない。ソダシの個性に合った舞台はたくさんある。必ず再び輝きを取り戻せると確信する。はじめて負けたオークスを糧に秋の飛躍を楽しみにしたい。

2着は2番人気アカイトリノムスメ。父母ともに三冠馬で、距離延長には自信があった。ソダシの背後にいたが、外から早めに動く馬やソダシの影響を受けてスムーズに進路をとれなかった分、ユーバーレーベンを捕らえられなかった。桜花賞4着、オークス2着と着実に着順をあげており、秋に向けてこちらも楽しみが膨らむ。

3着は16番人気ハギノピリナ。このレースがJRA・G1初騎乗だった藤懸貴志騎手の一発に賭ける騎乗が光った。牝馬としては珍しくデビュー以来、一貫して2000m以上を使われた経験値が大舞台でいきた。デビューが遅かったこともあるが、ハギノピリナの個性をつかみ、オークスに照準を絞った陣営の判断が好走につながった。最後の600mタイムに限界があるようなので、オークス3着とはいえ、スローの後半勝負の軽い競馬は合わない可能性もある。

オークスの前半1000mは59.9、前後半1200m1.12.5-1.12.0と逃げ馬不在だったにもかかわらず3歳牝馬にはタフな流れだった。後半800mラップは12.1-11.3-11.7-11.9。残り600~400mと早めの地点で最速ラップが刻まれたため、最後の400mはスタミナを問われ、距離適性が大きく影響した。オークスでつかんだ出走各馬の距離適性という個性を今後の馬券に活用したい。


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース公式コメンテーターを務める。

2021年オークスのレース展開インフォグラフィックⒸSPAIA




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