【フローラS】その名のごとく冷静に決めたクールキャット オークスの有力候補になれるのか

勝木淳

2021年フローラSのレース展開インフォグラフィックⒸSPAIA

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後方待機組には厳しいスローの縦長に

牝馬クラシック戦線は、サトノレイナスの日本ダービー挑戦もあり、無敗の桜花賞馬ソダシ一強ムードが強まる。昨年オークス2着のウインマリリンに続くフローラS組の本番好走はあるだろうか。桜花賞に向かわなかった阪神JF3着ユーバーレーベンが、ソダシとの力関係を測る上で基準になる。

レースはアンフィニドールが外枠から一気に注文をつけ、ハナへ立ち、離して逃げる形になった。前半1000mは12.5-11.4-11.3-12.1-12.9。アンフィニドールは外枠から勢いをつけたこともあり、折り合いを欠いた。中間地点では落ち着いたものの、序盤が速かったため、後ろは追いかけず、隊列は縦に伸びた。前半1000m通過1分0秒2、見た目ほどペースは厳しくない。いわゆるスローの縦長で、圧倒的に先行馬が有利だった。

後半1000mは12.8-12.6-11.3-11.0-11.5で59.2。後半600mは33.8。東京競馬場で縦長の後方から差を詰めるには繰り出せる脚に限界がある。勝ったクールキャット、2着スライリーは先行集団の前。東京競馬場の中距離戦らしく、道中で後方からの動きはなく、淡々とマイペースでアンフィニドールとの間合いを詰められた。1、2着馬にとってはアンフィニドールが引っ張ってくれて、後方待機組に厳しいというまさに理想的な展開だったといえる。

権利を獲得した1、2着馬

勝ったクールキャットは6月デビュー後、マイル重賞で5、10着、1800mのフラワーC0.3差5着。10着だったフェアリーSで気難しさを見せたが、フラワーCで一転して待機策、最後だけ競馬をさせた経験が、この日、実を結んだ。ルメール騎手の得意な「いつでもどこからでも動ける外目の好位」というポジションで、制御がきいた冷静な走りを披露した。大人びた走りはこの先、武器になるだろう。

折り合いを欠く不安を微塵も見せずに外目の好位に収めるルメール騎手はさすがだ。じつは、ここまでルメール騎手は3/6潮来特別以来、2勝クラス以上のレースを勝っていなかった。重賞はAJCCをアリストテレスで勝ってから連敗中。こんな記録は普通のジョッキーであれば話題にもならないが、わずか4カ月で60勝以上をあげるルメール騎手だからこそだろう。そんなこと、まるで気にもしていないといった騎乗内容だった。

2着スライリーは14番人気。キャリア5戦ながらクイーンC10着で球節を痛め、放牧へ行き、目標をオークスに切りかえた。この辺の事情が幸いした形だ。やはり、早くオークスに照準を定めた馬は見限れない。残り400m付近から苦しくなって内にモタれ、立て直しながらの叩き合いだった。

さらなる距離延長はどうだろうか。父オルフェーヴル、母の父ディープインパクト、母の母ターキーはシンダー、グランドロッジとたどる血とカーリアン、ニジンスキーの血をあわせ持つ。アイルランド色が強く、どちらも凱旋門賞馬を輩出した血だ。重厚な血統で時計勝負は疑問だが、距離をこなす可能性は十分ある。

ソダシの挑戦者としては……

3着は2番人気ユーバーレーベン。2コーナーでオヌールに前に入られ、位置を下げてしまい、後ろのインコースを嫌い、やや強引に外に出てきた。序盤の挙動が最後に影響した可能性もありそうだが、スローペースの後半600m勝負に付き合ってしまった面もある。

父はゴールドシップ。ここまでの競馬をみても、瞬発力勝負は明らかに不向き。最後の直線で仕掛けを待つような様子もあったが、そこまで瞬時にスパートできるようなタイプではない。荒っぽいぐらいの競馬をするか、早めに追ってエンジンをかけるべきだったか。本賞金は1000万円。ギリギリでオークスに滑り込めそうだが、この3着は痛い。

最終的に1番人気だったオヌールは8着敗退。そこまで厳しいペースではなかったが、4コーナー手前で手応えがなく、瞬時のペースアップに対応できなかった。本来はもう少し前で構えられるタイプで、発馬直後の先行争いで思うように流れに乗れなかった。これも経験の差だろう。

さて、ウインマリリンが勝った昨年のフローラSは強い南風のなかで行われ、前後半1000m58.6-60.1、1分58秒7だった。前半1000mはすべて11秒台という締まった流れを好位から抜け出したウインマリリンと単純には比べられないだろう。しかし、今年のフローラSは中盤で緩み、12秒台後半を記録。最後の600m11.3-11.0-11.5は最後までまとまった好記録だが、中盤の緩みが手伝ったものでもある。無敗の女王ソダシへの挑戦者、その有力候補になれるかどうかは疑問だ。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。

2021年フローラSのレース展開図ⒸSPAIA


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