【阪神牝馬S】逆襲の社台!ヴィクトリアマイルに王手をかけたデゼル・マジックキャッスル

勝木淳

2021年阪神牝馬Sのレース結果ⒸSPAIA

ⒸSPAIA

流れが向いたのは3着ドナウデルタ

2016年、1400mからマイル戦に距離変更されて以降、ヴィクトリアマイル好走馬を送り続ける最重要ステップレース、阪神牝馬S。大阪杯の死闘から一週間、心配された馬場状態は完全に回復、直前の難波Sは1000m通過1分1秒4のスローペースで最後の600mは32.6。3着コマノウインクルは31.9を記録した。全10場で開催時期などからもっとも芝の管理が難しい阪神だが、芝のレース数を抑えた効果もあって、9週目でも状態はいい。

阪神牝馬Sの1分32秒0はそういった馬場状態を差し引いても優秀な時計。マイル戦になって最速の記録。20年は1分32秒9、勝ったサウンドキアラは次走ヴィクトリアマイル2着。デゼルやマジックキャッスルも期待できるだろうか。

レースは阪神の京都牝馬Sを逃げ切ったイベリスが予想通りハナへ。距離延長を意識したゆったりしたリズムで走り、前半600m35.1、800m47.1のスローペース。後半800mが好時計を演出した。そのラップタイムは11.7-10.7-10.8-11.7。4コーナーからイベリスが加速を試み、前半が遅かったため後続も楽だった。バテる馬がいないレベルが高い叩き合いになり、内側に密集、ブランノワールあたりは進路取りに苦労した。

遅い流れ、坂をあがるまで止まらない先行集団、こういった状況を察知した川田将雅騎手はデゼルを外へ持ち出し、進路をクリアにした。デゼルを後半600mタイムで0.1上回りながら2着に敗れたマジックキャッスルはこの差だろう。直線で外の進路を失くし内側に切りかえたのは痛かった。

最後の瞬発力勝負になる3ハロン型競馬はこういった横の動きが命とりになる。しかし、デゼルもマジックキャッスルも先行勢に優位なスローペースを後方から差した点は評価できる。流れは徹底的にインを狙った3着ドナウデルタのものだった。

社台ファームの逆襲

1、2着はディープインパクト産駒。これでこのレースがマイルになってから、ディープインパクト産駒は【5-3-2-13】。6年間で5勝。忘れないようにしよう。なおもう一頭のディープインパクト産駒リアアメリアは9着だった。得意な流れになりながらも脚を使えなかった。緩急が少ないマイル戦は合わないようだ。道中で溜めを作れる中距離戦向きだろう。

勝ったデゼルの母はフランスの名牝アヴニールセルタン。フランスで走り、デビュー6連勝で挑んだ凱旋門賞では2番人気に支持された。日本からはハープスター、ジャスタウェイ、ゴールドシップが挑戦した年だった(結果は11着)。その父は5着プールヴィルと同じアイルランド産ルアーヴル。ルアーヴルはルメール騎手が主戦を務め、フランスでGⅠを勝つなどマイルから中距離で活躍した。欧州の名血ブラッシンググルームにさかのぼるナスルーラの系統だ。

この系統もほかのナスルーラ系と同様に衰退傾向だが、ナシュワンの系統から出たバゴがクロノジェネシスを送り、ルアーヴルの仔アヴニールセルタンがデゼルを産んだ。サンデーサイレンスに連なる系統、なかでもディープインパクトの血が飽和状態になりつつある日本だからこそ、配合次第でスピードやスタミナを伝えるナスルーラ系が果たす役割は大きい。プールヴィルの母ケンホープの父ケンダルジャンもナスルーラの系統だ。

アヴニールセルタンもケンホープも社台ファームが、ディープインパクト系の交配相手に輸入した馬。社台ファームはノーザンファームに押され気味だが、このレースの1、2着や中山牝馬Sを勝ったランブリングアレーなど牝馬の勢力図で反転攻勢をかけてきた。レイパパレのような在来牝系の末裔や欧州の名血が混ざりあう日本の競馬は懐が深く、血統の競争も厳しい。それだけに牝馬路線での盛り返しは、社台ファームにとって明るい材料だ。

ヴィクトリアマイルは東京のマイルGⅠのなかでも遅い流れになる傾向がある。阪神牝馬Sは似たラップ構成になりやすいため、本番に直結する。後方から瞬発力で流れに対応できたデゼルとマジックキャッスルは戦歴を考えても東京マイルへの適性は高く、社台ファームは18年フェブラリーS(ノンコノユメ)以来、社台レースホースは17年オークス(ソウルスターリング)以来のJRAGⅠ制覇に王手をかけた。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。

2021年阪神牝馬Sのレース展開インフォグラフィックⒸSPAIA


《関連記事》
【皐月賞】今年こそは共同通信杯組! ダノンザキッドよりエフフォーリアを買いたいワケとは
【皐月賞】東大HCが中山芝2000mを徹底検証 馬券に役立つデータは?
上手な付き合い方のコツは?ルメール騎手の「買える、買えない条件」

おすすめ記事