【阪神大賞典】目覚めたディープボンドのステイヤー資質 アリストテレスの今後は?

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荒天の日はキズナ
2019年6月に初年度産駒がデビューしたキズナは、今年3月14日までに芝で96勝。良馬場76勝、それ以外は36勝。重・不良は【17-7-9-84】勝率14.5%、複勝率28.2%。良だと勝率10.5%、複勝率27.7%なので、道悪でより勝ち切る傾向がある。
西から低気圧の影響を受けた日曜日は3場ともに雨模様。芝は中山・阪神が重、中京が不良。こうなるとキズナ産駒は躍動する。中山芝3着1回、ダート1勝、阪神芝2勝2着1回3着1回、中京芝2着1回3着1回、ダート2勝、1日5勝の固め打ちだった。キズナは芝だけでなく、ダートの道悪も走る。荒天の日はキズナと覚えておこう。
キズナといえば、印象的だった日本ダービーの末脚や父ディープインパクトという血統から切れ味勝負に強そうだが、母キャットクイルの血の影響力が強い。キズナの半姉ファレノプシスも振り返れば、33秒台の末脚を繰り出して勝ったのは引退レースの2000年エリザベス女王杯だけ。勝った桜花賞やローズS、秋華賞は最後の600mタイム35秒台後半から36秒台、華やかな馬名とは裏腹にタフな競馬に強かった。
ファレノプシスは父ブライアンズタイムから底力を受け継いだ。年の離れた弟キズナは、父ディープインパクトながら姉のようなタフさを産駒に伝える。となると、母キャットクイルの影響力を考える。その父はストームキャット。キズナやファレノプシスの母の父にあたる同馬はスピード色が強く、一本調子な短距離型のイメージ。そこに流れるノーザンダンサーから受け継ぐスピードの持続力が、日本で瞬発力に長けたサンデーサイレンスの血と混ざることで、底力を伝えるようになった。キズナはその象徴だろう。
壁を突き破ったディープボンド
阪神大賞典を勝ったディープボンドは3歳・京都新聞杯以来の重賞2勝目を挙げた。クラシックは皐月賞10着、日本ダービー5着、菊花賞4着。20年クラシック世代ではノースヒルズ軍団においてコントレイルの先を行く露払い的存在だった。そのなかでも距離が延びるほど成績が安定してきた点は見逃せない。
年明け緒戦の中山金杯14着惨敗、阪神大賞典5馬身差快勝、これは間違いなくステイヤーの戦歴だ。この5馬身差はキズナ産駒の道悪適性も手伝った結果だろう。ディープボンドがまとっていた“もやもや”が3000mで一気に晴れた。天皇賞(春)にはコントレイルはいないだろう。かつての露払いが出世する、相撲界でいえばこの上ない恩返しだ。父キズナは、現役時代、天皇賞(春)は4、7着、ステイヤーではなかっただけに、かえって種牡馬としての奥深さを感じる。
立て直せるか、アリストテレス
レースは伏兵ツーエムアロンソが先手を奪い、最初の1000m1分2秒4、中盤1000mは1ハロン13秒台が記録されるほど緩み、1分3秒2。道悪でスタミナを消耗した馬も多く、最後の1000mは12.2-12.1-12.2-12.3-12.9で1分1秒7。スローでも極端にペースアップしない厳しい流れだった。4コーナーでは中団より前にいた馬は、ディープボンド以外手応えがなかった。2、3着ユーキャンスマイルとナムラドノヴァンは、離れた後方で脚をためた馬だけにディープボンドのスタミナが強調される結果になった。それだけに2、3着2頭はこの成績を額面通りには受け取れない。
7着アリストテレスはどうしたものか。単勝1.3倍の期待に応えられなかった。3000mでコントレイルに肉薄、道悪のAJCC勝利という戦歴から重馬場の3000m戦はむしろ得意なはすだった。
ところが、最初の4コーナー付近から折り合いを欠きっぱなし。操縦性に不安がなかった馬だけにルメール騎手も驚いたのではないか。馬群に入れ、ディープボンドの背後に入るも、ハミをかみ続けた。タフな馬場で折り合いを欠いてほぼ1周を走れば、当然、最後に脚は残らない。ラストは苦しがって内にモタれた。天皇賞(春)を狙う上で、ここにきて折り合いを欠いての敗戦は痛い。心身ともにダメージが残る負け方だった。距離経験がないわけではなく、阪神大賞典出走の必要性はどうだったのだろうか。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。
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