【金鯱賞】大殊勲をあげたギベオンの勝因は?今回のレースで見えたデアリングタクトの課題

ⒸSPAIA
ギベオンのハナは予想できたか
どう考えれば、ギベオンを本命にできるだろうか。2000m【2-0-0-8】、中京【1-0-0-3】、最後に勝ったのは同条件のGⅢ中日新聞杯。これは18年12月のこと、もう2年以上前の話だ。
昨年の金鯱賞は先行してサートゥルナーリアの0.4差4着だったが、以後はGⅢで1.3、2.1、0.8差、先行する姿勢も薄れ、気力の衰えすら感じさせた。6歳初戦はリステッド競走の白富士S(東京芝2000m)、久々に先行するも最後に前が詰まり、0.4差5着。陣営はこの一戦で復活の兆しをつかんだようだが、これをもって金鯱賞で◎は難しい。
せめてハナに行くぐらいは予想できたか。キセキはいまだ戦法が定まらず、転厩初戦でミルコ・デムーロ騎手への手替わりとあっては逃げる可能性は低い。ジナンボーも先行力を持った馬だが、近走からハナは考えにくい。グローリーヴェイズも戦法が固まった馬で、ギベオンがハナを奪う可能性はないわけではなかった。
騎手心理が作用したギベオンの大殊勲
競馬は馬と人がつくりあげる。馬の特性を考える作業と同時に人の心理を読まなければ勝てない。単勝9番人気ジナンボー(65.4倍)から離されたぶっちり切りの最下位人気、単勝227.3倍のギベオンの逃げ切りから学びとれる点は多い。AIに勝とうなんて無茶はしないが、せめて大きな単勝万馬券をとってみたい。
このレースの中心は史上初無敗で牝馬三冠を達成したデアリングタクト。みんなこの馬に勝ちたい。だからこの馬の挙動に衆目が集まる。中距離戦でのデアリングタクトは中団で折り合い、末脚を発揮する競馬を続けてきた。4歳初戦、牡馬相手でもこれを崩す必要はない。松山弘平騎手も自信があっただろう。先行集団の背後、内にペルシアンナイト、後ろのサンレイポケット、ジナンボーは少し離れて追走と申し分ない位置をとった。
デアリングタクトが絶好の位置で追走していることを直前にいるグローリーヴェイズ(川田将雅)、ポタジェ(北村友一)、ブラヴァス(福永祐一)そしてギベオンの背後、番手にいるサトノフラッグ(C.ルメール)、百戦錬磨の騎手たちはみんな意識する。1000m通過1分1秒4の緩い流れは、デアリングタクトが背後にいる以上、先行勢にとって脚をためられ、好都合だった。
問題はくだり勾配に転じる残り1000m地点から3、4コーナーだ。ギベオンの西村淳也騎手は、馬の具合はいいから行けるところまで行こうと考えたにちがいない。11.7-11.9とギアチェンジし、後ろを離しにいく。ところが番手のサトノフラッグ以下は意識が背後にあり、追ってこない。
気がつけば、ギベオンに離される形になり、慌てるように追いかけたところで、思うように動けない。開幕週とはいえ、冬に使い込んだ芝、前日の降雨が影響した重馬場ではギアを上げにくい。
競馬で何かを起こすとすれば、前に行った時だという。逃げ馬はレースの主導権を握ることができる。先行勢はその支配を察知して、早めに追うか一旦引くかを決め、支配権を自陣に引き戻す。
先行勢はギベオンが支配した流れを意識せず、後ろにいたデアリングタクトを意識してしまった。ただ、これは責められまい。相手は牝馬三冠馬であり、昨年のジャパンCでアーモンドアイ、コントレイルに食い下がった実力馬。意識せずに競馬を組み立てるわけにはいかない。
先行勢にうまく見過ごしてもらったギベオンだが、勝利は敵失だけではない。みんなが意識するデアリングタクトをギリギリでしのいだのは大殊勲、恵まれただけでは勝てない。陣営の手応え通り復調気配にあった。
最後の末脚はさすがだったデアリングタクト
ギベオンを取り逃がしたデアリングタクトだが、休み明けとしては格好をつけた形になった。レースセンスが高く、1番枠からうまく向正面では中団の外目というどこからでも動ける位置をとった。
残り1000m地点では勝たれたと思わせるレース振りだったが、3、4コーナーで外目を動いたときに反応が鈍く、直線を向いて内にささるような素振りを見せた。松山弘平騎手がなんとか立て直し、坂を上がってからはただ一頭鋭く伸びてギベオンを追い詰めた。他馬が苦にする馬場で繰り出した末脚の破壊力はさすがだ。
それだけに勝負どころでの反応の悪さはなぜだろうか。原因は休み明けなのか、左回りなのか。後者であれば、今後の課題になりそうだ。そうはいいつつ、4歳初戦としては悪くはなかった。牝馬三冠を達成した馬のうち、現在の3歳で引退したメジロラモーヌを除き、4歳初戦を勝利したのはアーモンドアイ(19年ドバイターフ)のみ。スティルインラブ、アパパネ、ジェンティルドンナは敗れた。
牝馬は休み明けから全開に仕上げにくい。まして金鯱賞は目標ではなく、前哨戦である。2着という結果は、むしろ上々の滑りだし。波乱はデアリングタクトとギベオン以外の馬たちが起こしたともいえ、3着ポタジェ、4着グローリーヴェイズ、5着キセキ以下は今後慎重に評価したい。

ⒸSPAIA
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。YouTubeチャンネル『ザ・グレート・カツキの競馬大好きチャンネル』にその化身が出演している。
《関連記事》
【阪神大賞典】アリストテレス連勝なるか?「前走重賞組10勝」「1番人気6勝」など 覚えておきたいデータ
【スプリングS】1番人気の複勝率88.9% ランドオブリバティ信頼も激走期待の穴馬とは
【ファルコンS】グレナディアガーズ参戦も「前走GⅠ」は19戦0勝 当日まで覚えておきたいデータ
