【シンザン記念】福永祐一騎手が引き出したモーリス産駒の長所 勝ち馬より今後も買いたい馬は?

勝木淳

2021年シンザン記念レース展開ⒸSPAIA

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ワンペース型の代表、モーリス

2020年2歳新種牡馬ランキングで1位ドゥラメンテ(37勝)に及ばなかったモーリス(31勝)。この2頭の最大の違いはドゥラメンテ産駒【37-20-15-162】、モーリス産駒【31-38-21-170】。勝ち切る傾向があるドゥラメンテ、惜しい競馬が多いモーリスといった数字から生じるイメージにある。

どうにも歯がゆいイメージが定着しつつあったモーリス産駒だが、ドゥラメンテ産駒が未勝利の重賞で1、2着独占と反転攻勢をかけた。シンザン記念はモーリス産駒の特徴をより明白に示した。

シンザン記念の前後半800mは46秒3-47秒0。前半は速めのラップを刻み、後半で大きく落ち込まないというスピードの持続性を全面に押し出した構成だった。この流れを作ったモーリス産駒のピクシーナイトが逃げ切った。

詳しくラップをみていくと、12.5-10.9-11.3-11.6-11.8-11.6-11.6-12.0。スタートを決めて先制攻撃を仕掛け、その後もペースを一切落さなかった。滅多に逃げない福永祐一騎手だが、ピクシーナイトの長所を引き出し、勝ち切るための見事なラップ構成だった。スタート直後の200mとラスト200m以外すべて11秒台。1600mをスピードの持続性のみで勝負、1番人気牝馬ククナの切れ味を封じた。

モーリス産駒の2着の多さは持続力があっても切れないという特徴ゆえに最後に切れる馬に捕まるか、前にいる馬をとり逃すからだろう。他馬にレースを支配されると得意パターンに持ち込めない。ピクシーナイトの手綱を2戦連続でとった福永祐一騎手がモーリス産駒の特性を引き出した勝利だった。

2着8番人気ルークズネスト(500キロ)もピクシーナイト(536キロ)と同じく父モーリスに似た大型馬。不器用で瞬発力勝負に必要なギアチェンジが苦手な反面、一貫して同じペースを刻めるタイプで、道中で馬群に入れて緩急をつけることなく、外目を一定のリズムで走れたことが好走要因だろう。逃げもしくは大外回しといった大味な競馬もまたモーリス産駒を活かす形なのではなかろうか。

血統で考えれば2着ルークズネストか

グラスワンダーからスクリーンヒーロー、大一番に強い底力を伝えるロベルト系を継ぐ父モーリスは、母の父カーネギーからサドラーズウェルズへたどる重厚な血を合わせる。日本の近代競馬ではいささか重すぎるきらいもあるものの、自身は産駒同様不器用なスピード持続型でありながら最後の600mで33秒台を必要とする軽い競馬にも対応した。だが自身が最後の600mで最速を記録したのは、飛躍の契機となったダービー卿CTが最後。安田記念、マイルCS、天皇賞(秋)や香港も前で競馬を展開し持続力で瞬発力に対抗した。

ピクシーナイトの母の父は福永祐一騎手がはじめて日本ダービーに挑んだキングヘイロー。ダンシングブレーヴの血を引き、日本の競馬ではやや鈍重な欧州型の血をもつ。逃げて活路を見出したピクシーナイトがつくった今回のラップ構成は優秀ながら、今後の路線選択が難しい。シンザン記念の勝利でここまであっさり逃げさせてはもらえなくなるだろう。まして将来を考えて控える競馬という選択肢は血統のよさを活かしにくくなる。忘れたころに一発大仕事をする可能性があるも、次走以降、上位人気では買いにくい。

血統という意味では2着ルークズネストは母の父ディープインパクトでモーリスに軽い血が混ざった形である。春に向けて前半のペースが落ちて軽い競馬になっても対応してくる可能性は残された。

牝馬の評価はキャリアがカギ

3着バスラットレオンはピクシーナイトが逃げるとそれをマークするように好位をキープ、京都2歳Sでは切れ味で劣ったように自身にとって願ってもない形だったものの、朝日杯FSと同じく最後にひと伸びできなかった。阪神2戦と今回の中京の内容から現状は坂適性が足りず、平坦向き。不運なことに関西圏は京都がなく、中京や阪神が続く日程。坂が緩やかな東京出走なら前進があるだろうか。

1番人気ククナは4着敗退。アルテミスSで最後の600m33秒4を記録したように牝馬らしい切れ味勝負が身上。ピクシーナイトが作るペースは合わなかった。シンザン記念は桜花賞をみすえて早めに賞金を加算できるマイル重賞とあって18年アーモンドアイ、20年サンクテュエールと牝馬が目立つ。だが過去10年牝馬で好走した馬はすべてキャリア2戦以下。3戦以上だと【0-0-0-3】。桜花賞までレース数を絞る上でシンザン記念まで3戦は一戦多い形だった。

2021年シンザン記念のレース展開図ⒸSPAIA



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。YouTubeチャンネル『ザ・グレート・カツキの競馬大好きチャンネル』にその化身が出演している。


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