【秋華賞】ライバルを跳ねのけての勝利 デアリングタクトの物語はまだまだ続く

勝木淳

2020年秋華賞レース展開インフォグラフィックⒸSPAIA

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無敗の三冠牝馬デアリングタクト

日本競馬史上たった5頭しかいない三冠牝馬。秋華賞創設以降、牝馬三冠ロードは明確に競技の異なる三つの難関である。マイル戦への対応、折り合いと瞬発力が問われる2400m、淀みなく流れ、器用さとロングスパートが試される内回り2000m、これらすべてに対応しなければ三冠タイトルを手中に収められない。

6頭目の三冠牝馬となったデアリングタクトは負けることなく世代の頂点へと駆け上がった。これは日本競馬史上5頭いる三冠牝馬が成しえなかった偉業。我々は歴史の証人となり、デアリングタクトの三冠を見届けた。

いつかオールドファンになったとき、デアリングタクトの三冠を語るだろう。日高の小さな牧場である長谷川牧場から誕生した、無敗のクラシック三冠牝馬物語。来るその日のために秋華賞を振り返ろう。

ライバルたちの挑戦

レースを先導したのは紫苑Sを勝ち再浮上したマルタ―ズディオサ。ホウオウピースフルが突っかけ気味に番手をとり、オークスに続き8枠が当たったウインマリリンが3番手。この3頭が引っ張り、ミヤマザクラとリアアメリアの1枠2頭が続いた。

先行勢は後ろのデアリングタクトを負かそうと緩みないペースをつくり、勝負所で早めに外からデアリングタクトが押し上げると、抵抗せんと苦しいところを動いた。先行勢の最先着は逃げたマルタ―ズディオサの7着。早めに抵抗せねばならなくなったため総崩れとなったが、2人気13着リアアメリアも含め自身が上位に残ることよりデアリングタクトを倒しに行った末の大敗。胸を張ってほしい。

後方から2着に来たマジックキャッスルは、寸でのところでデアリングタクトに進路を奪われた春(オークス5着)と同じ轍は踏むまいと、デアリングタクトの内の進路を決死にキープ。4角で狭くなりながらも引かずに進路を守り通した。代打騎乗の大野拓弥騎手によって自身の持つ力はすべて出し切った。春よりも器用さが出てきたようだ。やや晩成型のきらいがあるソーマジックの血統だけにまだまだタイトルを獲るチャンスはある。

3着ソフトフルートは、夕月特別で刻んだ残り800mすべて11秒台というロングスパートを最大限に活かすべく最後方待機。道中はデアリングタクトよりさらに外目を追走、ターゲットの動きに合わせるように進路をとり、4角で7、8頭分外を回って押し上げた。スナイパーのような競馬で狙い撃ちを目論んだものの及ばなかった。しかしパラスアテナを最後の最後に捕らえたあたりに夕月特別に続き、力の片りんを見せた。

4着パラスアテナも道中はデアリングタクトの背後をとり、同馬の動きにきっちり呼応した。ひと呼吸置くことなく動いたのは負かしに行ったから。ソフトフルートに捕らえられたが、苦しみながらも最後まで抵抗しており、力は十分ある。

理想を現実にする力

デアリングタクトはこれらライバルの抵抗すべてを跳ねのけたわけだからあっぱれだ。京都内回り2000mで末脚のしっかりした馬がすべき、理想の競馬だった。唯一恵まれたといえば枠順だろう。内枠ではなく7枠13番が当たったことはこの上ない幸運だった。

この運を味方に、みんなが描いた理想の競馬を完璧にやってのけた松山弘平騎手の冷静さも忘れないでおきたい。理想を描くのは容易いが、それをパーフェクトに遂行するのは簡単ではない。中団後ろから進め、外から被されないような場所を通り、進路を常に確保、いつでもスパートできる態勢をつくり、早めに動いて4角で先行集団の外、これでライバルたちの仕掛けをすべて水泡に帰させた。

デアリングタクトの勝ち時計2分0秒6は評価が難しい。かなり時計はかかった。2週目にして早くも内が殺されるような重めの馬場状態のなか、デアリングタクトを意識しながら先行集団が作った1000m通過59秒4は厳しく、後半1000mは61秒2。後半で11秒台を記録したのは4角から直線半ばの残り400~200m区間のみ。どの馬も力を振り絞った競馬だったことは揺るぎようのない事実だった。

確かに時計は遅いが、中身を見れば完勝であり、古馬相手でもこの勝ち方なら期待したくなる。今後はアーモンドアイ、グランアレグリア、クロノジェネシスなどとともにしのぎを削ることとなるだろう。

同世代に1度も負けずにその頂点に立ったデアリングタクトはさらなる高みを目指し、どこへ行き、どの馬と対戦することになるか。その物語の続編へと我々は早くも思いをはせる。

秋華賞レース展開



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。YouTubeチャンネル『ザ・グレート・カツキの競馬大好きチャンネル』にその化身が出演している。

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