【スプリンターズS】その末脚、永遠に語り継ぎたい グランアレグリア上がり3F33秒6の凄さ

勝木淳

2020年スプリンターズS展開インフォグラフィックⒸSPAIA

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ダノンスマッシュの完璧を凌駕

グランアレグリアの発揮した末脚は滅多に見られないもの。「伝説」を目撃した気分だ。オーバーペースによって派手な追い込みが決まることはあるが、基本的にはスピードの優劣が勝敗を左右する要因であり、追走する側も自然と脚を使わされ弾けにくい。それが短距離戦。まして舞台は国内最高レベルのスピード自慢がそろうGⅠ。

2着ダノンスマッシュの競馬は完璧だった。それを凌駕したグランアレグリアの末脚は後世に語り継ぎたい、正に伝説レベル。パーフェクトに走ってもGⅠタイトルに届かなかったダノンスマッシュには同情を禁じ得ない。

レースは予想通り快速牝馬モズスーパーフレアが主導権を握る。そこにあえて挑んだ3歳ビアンフェ。16着に敗れたことで無謀な競りかけだったように見えるが、GⅠの大舞台で勝負せずにあっさり引いてはなにも残るまい。果敢に挑んだからこそ、その先がある。一方のモズスーパーフレアにとっては厄介この上なかった。前半600mは11.9-10.1-10.8の32秒8。ハナをとり切るまでに脚を使い、先頭に立ってからもビアンフェを突っぱねようと、スピードを落とせなかった。

回復したとはいえ例年とは異なる重い馬場だった。前半600mの今開催最速は9月27日1勝クラスの平場戦で記録された33秒6。GⅠなのでこれを上回るのは当然ながら、モズスーパーフレアは絡まれたことにより、前半やや突っ込みすぎた。600~800mの11秒5で精いっぱい。残り400mでなんとかビアンフェを制したところで脚は残っていなかった。後半600mは11.5-11.9-12.1。直線入り口でモズスーパーフレアが突き放したというより、ビアンフェが一杯になったことで差がついたにすぎなかった。それでも急坂までこらえたのはさすがだった。

坂を上がると様相は一変。モズを捕らえにいったミスターメロディ。コーナーリングにぎこちなさを残すものの、叩いて変わる藤原英昭厩舎らしく馬はきっちり反応した。

その動きをみていたのがダノンスマッシュ。好位から勝負所でミスターメロディの動きに対し、ひと呼吸おいた仕掛けは見事だった。早めに抜け出さないように細心の注意を払った競馬も憎いまでに完璧。だが、それら攻防とは次元の異なる脚を繰り出したのがグランアレグリアだった。

語り草となるだろう2020年の秋

超一流スプリンター相手にスタートは遅れ、道中は15番手追走。前に離されても動じることなく脚をきっちり貯めることを心がけた競馬に鞍上の信頼が伝わる。それにしても、4角でも15番手のままで、本当に直線だけの競馬。突き抜けた後の鞍上は気持ちよかっただろうが、見ている方はヒヤヒヤものだった。中山の直線でこの芸当は容易ではない。この競馬場の直線はたった310mしかないのだ。

モズスーパーフレアが突っ込みすぎたこと、上がりがかかる馬場状態も手伝い、後半は失速ラップの35秒5。ダノンスマッシュ以下、ライバルが最後に苦しがる馬場でグランアレグリアは上がり600m33秒6。レース上がりより1秒9も早かった。トップスピードに乗ったのは直線310mのうちどのぐらいだろうか。その瞬発力たるや想像のしようがない。

最後方から飛び込んできたのが10人気3着アウィルアウェイ。ゲートを決めながらあえて後ろへ下げたのは松山弘平騎手の作戦だっただろう。目前にグランアレグリアがいたことも幸運で、同馬に合わせて溜めるだけ溜めた競馬が功を奏した。ミスターメロディをゴール寸前で捕らえられたのは前半のペースが味方した結果だろうが、脚色で断然上回っていた。その弾けっぷりから、展開次第でスプリント重賞を勝つチャンスはまだまだあるだろう。

無敗の3冠に王手をかけた牡牝がおり、なにかと語り草となる秋になりそうだが、その初っ端からグランアレグリアが驚異的な末脚で魅せてくれた。その目撃者となる観客がいなかったのは残念だが、歴史に刻まれるであろう2020年の秋に観客が再び競馬場に戻り、立ち会えることは幸いである。

2020スプリンターズS展開


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。YouTubeチャンネル『ザ・グレート・カツキの競馬大好きチャンネル』にその化身が出演している。

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