【小倉記念】よもやの差し追い込み決着 格上挑戦アールスターを勝利に導いたポイントとは

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誰しもが意識した前有利の馬場
競馬に思い込みは禁物。舞台は前日から恐ろしく時計が速い絶好馬場の小倉。先行勢に厳しい競り合いはなさそうな組み合わせとくれば、主導権を握る前残り、先行勢断然優位と予想するのは自然なこと。
1人気ランブリングアレーはデータ上有利な8枠、スマートな競馬をする器用な先行馬に武豊騎手。流れに乗って直線入り口であっさり抜ける、こんな競馬を描いた人は多かった。だが、前へ行かないと勝負にならない、ランブリングアレーをマークしないといけないという感覚をレースに乗る騎手も抱いていたにちがいない。
これもごく自然な考えであり、戦前に前が有利という考えは危険だと察知するのは難しい。まして戦前の予想通り2番枠からミスディレクションが先手をとるという想定内の形でレースは始まったわけで、隊列が決まった1角あたりでも前が有利と誰しも感じただろう。
1角から向正面にかけて11秒3-11秒8と番手のタニノフランケルからのプレッシャーもあり、ペースを落とせなかったミスディレクション。急流になって馬群は縦長にはならず一団のまま。この様子からも抑えるより、ついていくべきと騎手たちが感じていたことが伝わる。
前半1000m通過58秒1は馬場を考えれば極端に早い記録でもない。だが残り600mでミスディレクションが後退すると、タニノフランケルが動いて11秒5とペースが一段あがった。そこに呼応したのが外を回ったロードクエスト。タニノフランケルとロードクエストに挟まる形になったランブリングアレーは引くわけにはいかず、外のロードクエストを弾かんと自らも進出。
残り400~200mは11秒7、コーナーでこのラップを外から動いては厳しかった。一旦抜けかかったランブリングアレーをインから急襲したアールスターが一気に抜け出し、ケリをつけた。長岡禎仁騎手、これが重賞初勝利。関西に拠点を移し、杉山晴紀厩舎のバックアップを受け、ケイティブレイブでGⅠ連続2着と築きあげた信頼関係がもたらした勝利だった。
アールスターのポイントは1角にあった。先行するノーブルマーズの動向を見ながら、その外に並ぶか後ろに入るかという場面、1角入り口で真後ろのラチ沿いに馬を収めた。この選択が余計な脚を使わず、末脚を十分に温存、最後の爆発につながった。2、3着とは異なり、ある程度の位置で緩まない流れに乗りながら弾けた点も見逃せない。
展開利だけで勝ったわけではない。外の馬たちの動きに対してひと呼吸置けた余裕は、ラチ沿いというポジションあってのものだった。
次回妙味は16着ミスディレクション
2着サトノガーネットは、中日新聞杯であがり33秒3の末脚を繰り出し勝利した実績馬だが、やはり開幕週、前有利な高速馬場から好走をイメージしにくかった。
その中日新聞杯同様に大外一気で2着。アールスターとは通ったコースの差ではあるが、大外ぶん回しが好走要件だけに買いどころが難しい。今回のような厳しい流れでこそのタイプ、距離が長いタフな競馬に適性がありそうで、ステイヤーっぽいところがあるので、エリザベス女王杯の伏兵に面白いかもしれない。
14着大敗の逃げたミスディレクション、動いて一旦先頭の6着ランブリングアレーは流れが向くレースであれば巻き返す可能性十分。ミスディレクションは大敗後だけに人気を落とせば妙味は十分ある。それこそ14着という数字にこれは厳しいのではと思い込まないことだろう。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。YouTubeチャンネル『ザ・グレート・カツキの競馬大好きチャンネル』にその化身が出演している。
