【エルムS】リアンヴェリテが作る緩い流れ 味方につけた組と泣いた組の明暗

勝木淳

2020年エルムS位置取りⒸSPAIA

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昨年より2秒5遅いスローペース

ダートの中距離重賞でカギを握る馬、リアンヴェリテ。昨年もエルムSに3人気で出走、ドリームキラリと激烈なハナ争いを繰り広げ、ハイペースを誘発。6.5-10.6-11.4-11.9-12.1で前半900m52秒5だった。

今年も出走したリアンヴェリテは前走マリーンSでは1人気ながらメイショウワザシにハナを譲り、13着大敗。行かずに敗れた前走、逃げ馬不在の組み合わせに恵まれ、久々に逃げを打った。近走の成績もあって絡む馬はおらず、今年は6.7-11.2-12.4-12.4-12.3、900m55秒0と昨年より2秒5も遅いスローペースに作った。リアンヴェリテ出走=ミドル以上のハイペースを想像してしまうが、競り合う馬がいなければそうはならない。

前半がゆったりと入る流れは2着ウェスタールンドにも味方した。前半は一切無理をさせたくない同馬にとって緩い流れは追走しながら脚を温存できる絶好の展開。3角12番手、馬群の大外をあっという間にまくって4角4番手、最後の600m35秒5、ダートで早い上がり時計を繰り出せるスローペースはウェスタールンドがもっとも力を発揮できる流れになった。

後方待機策馬にとってすべてペースが速い方がいいわけではない。ウェスタールンドは珍しいタイプではあるが、スローペースこそ絶好の流れ。不得手そうな小回りコースであっても流れ次第で十分走る。

そのウェスタールンドを完封したのがタイムフライヤー。外枠なりに道中は中団の外目を追走。砂を被らず、馬群で揉まれるストレスもなく余裕の追走。勝負所でも馬なりのまま残り400~200mの11秒7に対応。外から一気にまくってきたウェスタールンドの仕掛けを待つような余裕があった。同馬に並びかけられてから追い出されると、一気にスパート。かつて芝で見せていたようなトップスピードに瞬時に乗れる走りを取り戻した。

ダートに矛先を変えたのは昨年のエルムS。武蔵野S2着、フェブラリーS5着など速い上がりを求められるレースでの強さをスローペースで発揮した。前走マリーンSで2歳ホープフルS以来の勝利をつかみ、完全に再度軌道に乗った印象。リズムを崩した長い時間、陣営がその力を信じ、それを発揮できる舞台を模索した苦労が報われた重賞2勝目だった。

スローに泣いた組、巻き返すのは……

3着アナザートゥルースは58キロを背負うも3着。リアンヴェリテの番手につけ、早めにそれを捕らえる積極策はペースを考えれば大正解。上位2頭とは上がりが速い競馬への適性の差が出た印象だが、ダートの一流どころらしい安定感あるレース運びが持ち味であり、今後も場所を選ばず走れるだろう。ダートは地方交流も含め選択肢は広く、まだまだ稼げる馬だ。

昨年2着のハイランドピークはあと一歩足りず4着。勝負所で外からかぶされ、仕掛けが遅れる場面もあった。同馬にとってスローペースの上がり勝負は展開的に厳しく、であればリアンヴェリテを追いかけ、ペースをあげるような競馬でもよかったかもしれない。

展開に恵まれなかったといえばワンダーリーデル。ウェスタールンドの前にいて、先にウェスタールンドに動かれ、そこに反応せずに4角13番手は横山典弘騎手らしい馬のストロングポイントを熟知した競馬。スローで直線が短い札幌では追い込み届かず5着は納得。もう少し流れて前が止まる流れや直線が長いコースに変われば一変する可能性は十分。それだけゴール前は脚色が際立っていた。

2020年エルムS位置取りⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。YouTubeチャンネル『ザ・グレート・カツキの競馬大好きチャンネル』にその化身が出演している。

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