【レパードS】越後でこそ、ケンシンコウ! 勝負を決めた1角の攻防とは

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越後路で開花したケンシンコウ
越後の龍と称される上杉謙信が遺した十六か条に及ぶ家訓「宝在心」にこんな一文がある。「心に勇みあるときは悔やむことなし」。新潟競馬場唯一のダート重賞レパードSを逃げ切ったケンシンコウがその家訓を知るわけはないが、まさに上杉謙信が遺したその心を体現したような走りだった。
舞台は新潟では年間で2、3日間ほどしかない不良馬場。スタートからハミをしっかりかけて先行態勢をとったタイガーインディ。最内枠のケンシンコウは直後は押さえながら競り合う素振りはなかったが、そのスピードは行き脚がついたタイガーインディと五分。こうなれば内枠を利したコーナーリングで優位に立てる。
しかしながらハナを主張するタイガーインディに競りかけるのは無謀として引くこともできた。だが、ケンシンコウと丸山元気騎手は引かなかった。押さえながらでも五分の速力があるものを譲る必要はなかった。
タイガーインディがそれでもハナを譲らぬと突っ張ってくればハイペースに巻き込まれる。そのリスクを抱えながら引かずに突っ張ったことがまずは勝因。上杉謙信の言葉は「困難を乗り越え実行するには勇気が必要。思い切れば悔やむこともない」と訳される。ケンシンコウは勇気をもってハナを主張した。
すると、タイガーインディが2角出口で押さえて下げた。ここから向正面の400mは12秒6-12秒4と十分に息が入る流れを作ることができた。この区間でデュードヴァンとライトウォーリアに挟まれるのを嫌ったラインベックが外に進路を作ったことでかえって行きたがり、番手のタイガーインディとともに3角でケンシンコウとの差を詰めに行くと、ケンシンコウは11秒9とペースをあげる。
このペースアップによって先行集団は手ごたえが悪くなる。4角で後続の追い上げが厳しくなかったため、再度12秒2とラップをあげずに済み、4角出口から直線でふたたび11秒9を記録。ここでケンシンコウは勝負を決めた。時計はトランセンドが記録したレコードを0秒3更新。勇気を持った逃げによって新たな一面が引き出された。
デュードヴァンの敗因とは
後続は置かれてしまい、デュードヴァン、ブランクチェックが2着を争うところに、手ごたえが早々に悪くなったミヤジコクオウが、和田竜二騎手の激しいアクションにこたえて2着にあがった。ミヤジコクオウはスタート直後から出ムチが入り、4角手前からステッキが飛び、高速馬場に苦しみながらも2着。最後の直線ではかなり内にもたれる仕草を見せるも和田竜二騎手が右に体重をかけながら左ステッキで矯正、最後まで脚を使った。
1人気デュードヴァンはブランクチェックに先着を許し4着。勝負所でインを突いたブランクチェックに対してデュードヴァンは終始外を回る形が響いた。高速決着でコースロスは痛かった印象。3着との差はそこしかなく、道中もラインベックとの進路取り争いがあり、やや落ち着いて走れなかった。
地力は見せたミヤジコクオウ以下はケンシンコウに完封されたわけだが、先手をとりレースを支配することによって力差を逆転、なおかつ自身の眠っていた力を引き出した。この夏は差し馬による波乱が目立つが、このレースはそれらとは異なる。自力で道を切り開いたケンシンコウは今後も注目すべきだろう。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。YouTubeチャンネル『ザ・グレート・カツキの競馬大好きチャンネル』にその化身が出演している。
