【アイビスSD】わずかな挙動が勝負を分ける 菱田裕二騎手の頭脳プレーとは
勝木淳
ⒸSPAIA
外ラチ沿いをすぐにとらなかったジョーカナチャン
結果は5月韋駄天Sの1、2着が入れ替わり、ジョーカナチャンが勝ち、ライオンボスが2着、タイム差なし、アタマ差まで同じ。時計は韋駄天S54秒2でアイビスSDは54秒5、0秒3遅いのみ。ほぼ酷似した結果となった。
韋駄天Sはハンデ戦でライオンボス57.5キロ、ジョーカナチャン53キロの4.5キロ差。今回は57キロと54キロの3キロ差。枠順は韋駄天Sではライオンボス内、ジョーカナチャン外、今回はジョーカナチャンがライオンボスの内。状況的に考えれば、僅差でも逆転したジョーカナチャンをたたえるべきだろう。
ダッシュ力は前走も今回もジョーカナチャン。ライオンボスは斤量の影響もあるのか騎手が促しながら流れに乗るが、ジョーカナチャンは馬なりで同等のダッシュ力。ハナはいずれもジョーカナチャン。韋駄天Sは外ラチ沿いすんなりだったが、今回は真ん中枠から外に寄せつつ、ライオンボスが枠順を利して先にとった外ラチ沿いを開ける形になり、ここでライオンボスを若干だが押し込むような場面があった。
この馬に勝たなければ重賞タイトルはない。菱田裕二騎手は枠順が内であることを最大限に利用した。まっすぐラチ沿いに飛び込まず、ライオンボスをけん制しつつ、残り600m付近ぐらいで外ラチ沿いに入った。こうなればライオンボスは進路を消されるので、わずかでも内に動く。
韋駄天Sでは最後に捕らえたが、今回と同じく手ごたえが先に悪くなるのはライオンボス。快速馬のイメージだが、案外追わせるようなところがある。残り500mから、ライオンボスの鮫島克駿騎手は両側からしっかりハミをかけ、左ステッキを連打。ここで右にヨレてしまい、立て直しを求められてしまった。右ステッキに持ち替え、ジョーカナチャンを追撃するが、この一連の挙動のスキにジョーカナチャンがとったリードを最後までもたせた。
たった1000m、55秒に満たないレースでは、ちょっとした動きが致命傷となる。このライオンボスの動きを誘ったのは菱田騎手だ。スタートダッシュに加え、一度けん制を入れつつ外ラチ沿いに収まったことで、ライオンボスは勝負所でやや内に動かざるを得なかった。
スタート直後から外ラチ沿いに飛び込む。もしくは、正直に外ラチ沿いをとったライオンボスの進路を作ってあげるような騎乗では勝てなかった可能性がある。たった1000mの戦いでも見返すと駆け引きがたっぷり。単なるスピード勝負では勝てないのが新潟直線1000mである。
韋駄天SとアイビスSD、その上げ下げとは
韋駄天SとアイビスSD両方に参戦した馬は18頭中8頭。着順をあげたのはジョーカナチャンを含め3頭、下げた馬はライオンボスを含め5頭だった。
●韋駄天S
11.9 - 10.0 - 10.3 - 10.6 - 11.4 54秒2
●アイビスSD
11.7 - 10.0 - 10.4 - 10.8 - 11.6 54秒5
着順をもっとも大きくあげたミキノドラマー(韋駄天11着→アイビス6着)は2番枠から18番枠になった枠順の差が出た印象。韋駄天55秒1で今回は54秒8大きくパフォーマンスをあげた印象はなく、次走狙えるかとなると疑問符がつく。
着順を下げた組ではラブカンプー(韋駄天7着→アイビス10着)。54秒8から55秒0。韋駄天Sも内枠だったが、今回はスタートをきっちり決め、一目散に外ラチへ行き、前半400m地点でライオンボスの真横を確保。当コース得意の藤田菜七子騎手らしい積極性とCBC賞で復活したラブカンプーの活力は十分見せた。連戦によるダメージは心配だが、まだまだ見限れない。
着順を2つ下げた(韋駄天3着→アイビス5着)ダイメイプリンセスは54秒3→54秒6だが、一旦は外側馬群に入ったものの、進路がなくスペースを探しながら真ん中へ持ち出され、再加速。7歳牝馬で脚を余すようなシーンが目立つのは気になるが、スムーズなら馬券圏内に来ても不思議はない。
最後に韋駄天Sに出走せず、はじめての直線競馬で3着にきたビリーバー。ダッシュ力では見劣りながら冷静に進路を探し、最後はきっちり末脚を発揮、中団から唯一伸びて馬券圏内に来た。
5歳でオープン入りの遅咲きだが、条件戦時代から堅実に駆ける馬。今回も9人気と人気の盲点になりやすい馬。短距離戦線では馬券妙味あふれ、軽視は禁物だろう。土曜1Rの同条件2歳未勝利戦に12頭を出走させ、話題になったミルファーム。その祭りは土曜1Rで終わったわけではなかった。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』にて記事を執筆。YouTubeチャンネル『ザ・グレート・カツキの競馬大好きチャンネル』にその化身が出演している。
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