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【安田記念】グランアレグリアとアーモンドアイ 牝馬二頭の明暗を分けたポイントとは?

2020/06/08 10:17
勝木淳
2020年安田記念結果位置取りインフォグラフィックⒸSPAIA

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ゲートの難しさ

2020年安田記念結果位置取りインフォグラフィック



馬にとってゲートを遅れないように出ることは難しい。2020年の安田記念は昨年と同様にスタートが明暗を分けた。1番人気アーモンドアイはゲートが下手な馬ではない。むしろ2000m以上の中距離戦では速い部類であり、好位をとれる器用さこそが武器だった。

だが、ゲートを出るスピードはクラスや距離によって異なる。スムーズな競馬で快勝した馬が次走同距離の格上げ緒戦ではゲートで遅れをとり、位置を下げてしまうケースは枚挙にいとまがない。そうしたとき「出遅れ」と評価されがちだが、実際には遅れたのではなく、直前のレースと同じようなスタートを切っただけだったりもする。そうした観察はしばしば見落とされがちだが、見極めなければならない。

距離短縮は馬券作戦の常套手段だが、短縮はより速くゲートを出る器用さを求められたりする。そして、距離延長はその真逆で、かえってスタートが向上したように見える。それはスタートが速くなったわけではなく、全体のダッシュ力が下がったなかで相対的に速くみえることもある。

短距離戦の経験値

アーモンドアイは牝馬相手のヴィクトリアマイルを圧勝。ゲートに不安はなかった。昨年と異なり距離短縮ではなかったものの同じマイル戦でも自身を含めGⅠ馬10頭というハイレベルなメンバー、当然ライバルもゲートが速い。

加えてアーモンドアイは突進、一旦下がったタイミングでゲートが開いてしまう不運もあった。中距離戦では多少の遅れもリカバーできてもマイルGⅠではそれも容易くない。

勝ったグランアレグリアは阪神C、高松宮記念と短距離戦でスタートダッシュを鍛え、テンが速い競馬に慣れており、ダノンスマッシュが作る流れに見事に順応していた。距離延長の利点を生かした競馬ができた。

先行集団の直後にできたポケットに収まったあたりにそれを垣間見た。ゲートで後手を踏み、位置を下げたアーモンドアイの目の前にはライバルがズラリ。早々に下がってきそうにない強敵相手では馬群を割る競馬は高リスク。

自然と勝負所は外を回らざるを得ない。そこでグランアレグリアとの間に生じた差を詰めるのは容易ではなかった。残り400~200mのラップタイムは究極に近い11秒0。ここで伸びてきたグランアレグリアを交わすにはそれを超える脚を要する。

いくらアーモンドアイとて物理的な差を埋めるのは難しい。だからこそ、ゲートと前半のダッシュ力による位置の差が明暗を分けた。であれば諸事情によりヴィクトリアマイルを回避、結果的に距離延長で挑戦となったグランアレグリアは災い転じて福となすというところか。

騎乗した池添謙一騎手は昨秋のマイルチャンピオンシップでインディチャンプに代打騎乗で勝利、今回は主戦がアーモンドアイに騎乗することでグランアレグリアを任され、結果的に自身は芝マイル王決定戦で連勝を飾った。不思議なめぐり合わせだが、厳選騎乗、一発勝負の大舞台での強さといった自身のセールスポイントを大いにアピールした場となった。

距離短縮の典型ダノンキングリー

3着インディチャンプは落鉄の影響もあり、ゴール寸前でアーモンドアイに交わされたが、こちらはややもったいない競馬だった。徹底してインコースでロスを消したまではよかったが、グランアレグリアが抜け出したときにアドマイヤマーズとのスペース争いに遅れをとってしまった。

手応え十分だっただけに進路取りで遅れをとったのは悔やまれる。先述したが、残り400~200mは11秒0、少しの遅れも許されないラップだった。

好位を占めた短距離志向の馬たちが伸びを欠いたのはやむない結果だが、7着ダノンキングリーは得意の東京だっただけに物足りなかった。距離短縮組でもスタートを決め、一旦は好位から下がりかけたもののグランアレグリアの直前とポジションは悪くなく、直線に向いえてからもスペースはスムーズに作れた。

アドマイヤマーズと接触するようなシーンは確かにあったが、大きく影響するようなものではないように見えた。距離短縮は時として道中で周りが速く、脚を溜めきれないという副作用もある。1800mの毎日王冠で見せるような鋭さがなかったのはそのあたりが影響したのだろうか。ベストがGⅠの設定がない芝1800mとなると、この馬のジレンマは続くこととなるが、昨年と同じく毎日王冠で見事に巻き返す可能性は高い。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』にて記事を執筆。