【日本ダービー】まだまだ未完成! 無敗の二冠馬コントレイル、その宿命とは

勝木淳

2020年日本ダービー位置取りインフォグラフィックⒸSPAIA

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失意の時代に現れる希望

日常が当たり前ではないという不思議な世界に迷いこんで2ヵ月以上が経過。1回東京、2回京都、1回小倉を最後に競馬場から観客が消えた。だれもいない競馬場でダービー2勝の四位洋文がステッキを置き、クラシックのトライアルレースが進んでいった。

そして現金投票がなくなり、馬券が消えた。ネットとテレビでしか楽しめない競馬は日常ではなかった。競馬場の空気を吸えない、馬券を握ることができない日々。それでもクラシックロードは桜花賞、皐月賞を終え、オークスとダービーまでやってきた。

だがその間、あらゆる娯楽やレジャーは姿を消していた。開幕するはずのプロスポーツは6月にようやく再開のメドが立ち、春夏の甲子園をはじめ高校生が夢を抱く青春の目標は失われてしまった。

確かに日常ではないかもしれないが、日本ダービーまで無事に予定された日程を消化していった競馬は奇跡なのかもしれない。どこかにウイルスが侵入すれば閉ざされたであろう道を無事に歩んできた、関係者の努力は想像を越えたものだった。おかげで我々は完全に日常を失わずにすんだ。

2011年東日本大震災。同じような日常が当たり前ではない感覚に襲われたとき、競馬ファンに勇気をもたらしたのはドバイWCのヴィクトワールピサや三冠馬オルフェーヴルだった。そして2020年、無敗の二冠馬コントレイルが誕生した。父ディープインパクト以来の偉業を父がこの世を去った翌年に達成する。コントレイルの運命の物語は秋へと続く。

挑戦者たちを寄せつけない強さ

2020年日本ダービーは大外枠のウインカーネリアンがハナに立ち、初角を利して一気にペースを落とすメリハリある田辺裕信騎手らしい逃げではじまった。

12秒9-12秒6と続く流れを嫌った横山典弘騎手マイラプソディが、馬群から離れた大外からハナへと動く。日本ダービーらしい起伏ある、座して負けを待たない道中だった。コントレイルは伏兵たちの揺さぶりに一切動じることなく、3番手で悠然と流れに乗り、4角出口でキレイにできたビクトリーロードを馬なりで駆けていった。

ラップで示すと11秒3-11秒3の地点だ。外からサリオスが来るのを確認してから追い出されると、一気に突き放し、0秒1だった皐月賞での着差を0秒5に広げてみせた。抜け出した最後の200m11秒7は遊びながら最後までしっかり伸びた証だ。

2着サリオスは皐月賞とは逆の位置取り、それも終始外目を回ってはコントレイルには敵わない。スタート直後にしきりにインに目をやったD.レーン騎手、きっとインに入りたかったのではないか。勝負所の11秒3とペースアップした地点でレーンの手応えは芳しくなく、瞬発力で見劣った印象。それでも3着ヴェルトライゼンテに0秒3差、持続力勝負なら世代を代表する一頭であるにちがいない。

その3着ヴェルトライゼンテは、皐月賞8着で人気を10人気まで落としていたが、昨暮のGⅠでコントレイルと0秒2差の実力馬。一発勝負に強い池添謙一らしい隣にいるコントレイルを徹底マークする騎乗が光った。瞬発力でコントレイルに置かれてしまったが、追いかけた分、進路は十分に確保できた。

4着サトノインプレッサは幸運の1番枠をダービー初騎乗の坂井瑠星騎手が最大限活かした。直線の叩き合いも狭いスペースへ躊躇なく飛び込んでこじ開けてきた。大勢が決した後だったので見逃しがちだが、末脚は目を引いた。NHKマイルCは不利で力を出せなかったが、こちらは距離延長で巻き返した。難しいローテーションだっただけに矢作厩舎の底力はこの馬からも見えてくる。

第87回日本ダービーの記憶を胸に

わずかでも着実に慎重に日常を取り戻す6月がはじまる。競馬場に歓声が戻る日も必ず訪れるだろう。競馬を愛する人々の日常が戻ってきたとき、我々は以前に増してその貴重さ、ありがたみを噛みしめるだろう。

その感謝の象徴たるサラブレッドを代表する一頭コントレイルに会える日を心待ちにし、日常を取り戻そうではないか。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』にて記事を執筆。YouTubeチャンネル『ザ・グレート・カツキの競馬大好きチャンネル』にその化身が出演している。

2020年日本ダービー位置取りインフォグラフィックⒸSPAIA

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