【NHKマイルC】直線が長いということは後方待機組が有利なのか?東大HCがNHKマイルCの「ペースと脚質」を徹底分析
東大ホースメンクラブ
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「ペースと脚質」をチェック
今週末は3歳マイル王決定戦、NHKマイルC。阪神JFで衝撃のレコード勝ちを見せ、前走の桜花賞でも決してベストではない道悪の中2着と意地を見せたレシステンシアに、サトノインプレッサ、ルフトシュトロームと2頭の無敗馬、重賞2勝に加えキャリア5戦全て連対と堅実な走りを続けるタイセイビジョンなどが戴冠を狙う。
今週はレース的中のために重要な「ペースと脚質」をチェックする。東京芝1600mの過去5年のレースを見ながら本番で狙いたい馬をピックアップしていく(使用するデータは2015年4月18日〜2020年4月11日)。
95%以上差しが馬券に
今回のコラムではペースと脚質の相関関係を調べるにあたり「脚質ポイント」という概念を用いる。これは馬券になった馬の脚質別に、逃げ:0ポイント、先行:2ポイント、差し:3ポイント、追込(マクリも含む):4ポイントと設定する試みだ。たとえば、「先行・差し・追込」の決着になった場合、3着以内の脚質ポイント平均は(2+3+4)/3=3ポイントとなる。
早速東京芝1600mのデータを見てみよう。上図は横軸を逃げ馬の前半5Fタイム、縦軸を3着以内の脚質ポイント平均とした散布図だ。同じ前半3Fタイム・同じ脚質ポイント平均となるレースが存在するため、点が複数重なる場合は濃くしてある。点が下にあれば逃げ・先行有利、上にあれば差し・追込有利になる。
直線の長い大箱コースのため、東京芝1600mは差し・追込がほぼ確実に馬券圏内に入っている。差し・追込馬が1頭馬券に絡んだレースはなんと全体の9割弱を占め、2頭以上絡んだレースまで絞っても5割強。データが示す通り散布図も上方に濃い点が集まっている。前半60秒台程度にまで緩まない限り差し有利は揺るがず、まずは後方待機組に席があるという前提の上でレース検討に入るべきだ。
3歳オープン・重賞における前半5Fの平均タイムは58.35秒、古馬オープン・重賞は58.49秒。この条件でもキレのある馬に追い風が吹く状況に変わりはないが、さすがに上級条件とあって前の馬もしぶとい。
ただ近年の安田記念では57秒台で入った前の馬が最後の3Fを34秒台半ば程度でまとめて残すケースが多いのに対し(17年2着ロゴタイプ、19年2着アエロリットなど)、対照的にヴィクトリアマイルは過去5年差し馬が全勝している他、4角3番手以内通過で連対したのは2015年2着のケイアイエレガントしかいない。
これは安田記念が内有利顕著なCコース代わりのダービーから1週後に行われ、馬場傾向が継続しているという点が大きい。古馬GⅠの性格の違いを頭に入れておくと的中に近づくだろう。
NHKマイルはより後方組が有利
次に過去のNHKマイルC全レースに限定してみると、先行馬3頭で決まったのはジョーカプチーノの2009年のみと、全体の95.8%で差し馬が3着以内に入ったとあらばさらに後方待機勢を買いたくなる。
過去10年のレースのうち8レースで4角10番手以下の馬が馬券になるなど、全体平均より追込が届いているのも特徴。前半5Fの平均は58.00秒と古馬GⅠにも劣らないほど厳しい流れで、3歳春の逃げ・先行馬には荷が重いペースというのが理由だ。
過去NHKマイルを逃げ切ったのはカレンブラックヒル、メジャーエンブレム、ミッキーアイルの3頭。カレンブラックヒルの年は前半5Fが全24回で最も遅い59.9秒と例外的で、メジャーエンブレムは阪神JFを快勝・クイーンSを大楽勝と、怪我さえなければもっと大きいところを取れたであろう逸材、ミッキーアイルは以後短距離・マイルGⅠで4度馬券になり2年後のマイルCSを勝った。タフな流れに揉まれて好走するには一枚抜けた能力が求められる。
一方、強い逃げ馬・追込馬がいた年はその逆の脚質を持つ人気薄が走るシーンが多々見られる。ミッキーアイルが逃げ切った2014年は17番人気のタガノブルグ、12番人気のキングズオブザサンが怒涛の追込を見せ、同じく2007年のピンクカメオ・ムラマサノヨートーが追い込んで1・3着の大荒れ決着も2着の1番人気ローレルゲレイロは先行馬だった。
他にもクロフネがまとめて撫で斬りグラスエイコウオー・サマーキャンドルが残した2001年、メジャーエンブレムが逃げレインボーラインが3着に食い込んだ2016年……とこの手の決着は枚挙に暇がない。今年は世代屈指の逃げ馬レシステンシアが出走。追込の人気薄から大枚を狙うのも一策だ。
レシステンシアの評価は?
ではこのデータに基づき、今年のレースを展望していく。
前走の桜花賞ではスマイルカナを見る形の2番手で進んだレシステンシア。前半5F通過は58.0秒だったが、このタイムは重・不良馬場で行われた阪神芝1600m(外)の過去全レース中最速だった(2位が58.7秒。本来前が残るはずのないペース)。デアリングタクトには敗れたものの、負けて強しの極めて評価できる内容だった。
暴走ペースともいえる流れから、さらにしまいのキレを見せて逃げ切った阪神JF。道中緩めてマルターズディオサの後塵を拝したチューリップ賞からも、アエロリットのようにタフな流れでこそ持ち味を十全に発揮するタイプであることは周知の通り。この馬がベストパフォーマンスを見せた阪神JFでは前半5Fを57.5秒で通過しており、後半3Fを35.2秒(上がり最速)で締めた。本番でも同様のペースで進むだろう。今回の東京開催は高速傾向が強いのも追い風、能力を出し切れば簡単には捕まえられない。
懸念は前走の反動。過去に前走が重・不良馬場だった馬は42頭いたが、このうち勝ったのはあのエルコンドルパサーだけで、牝馬の最高着順は3着だった。稍重まで広げればアエロリットがいるが、後方14番手から追い込んで桜花賞5着からの臨戦だったアエロリットとは負担の差があるのも事実。デアリングタクトが少しでも休養を取るためにダービー出走を検討しているほどの疲労を残していることからもその厳しさは窺い知れる。
レシステンシアは、3歳牝馬にとってあまりにも酷だった桜花賞からわずか中3週。さらに、関西の競馬場ばかりを使ってきた本馬にとっては初の長距離輸送も壁となる。力量は疑いようもないが、軸に据えるのはまだ不安が残る。
NHKマイルマイスターを背に
おすすめしたいのはサクセッション。4強に次いで5・6番人気あたりの支持が予想される。この馬が強かったのは2走前のジュニアC。逃げたデンタルバルーンが前半5F57.7秒というハイペースで飛ばす中、マーフィー騎手は道中7番手から動いて4角2番手までマクっていくという掟破りの騎乗。ハイペースで順位を上げるのだから、この馬は額面より厳しいラップを刻んでおり、当然ながら外を回しての距離ロスもかなりのものだった。本馬はペース・距離という二重のハンデを背負いながら直線しぶとく脚を伸ばし、終わってみれば2着に2馬身半差をつける快勝。勝ちタイム1:33.4は中山芝マイルで施行された過去21回のジュニアC史上最速タイムだった(2位がGⅠ2勝を含む重賞7勝馬キンシャサノキセキ)。同週の中山金杯が勝ちタイム1:59.5だからとりわけ高速馬場でもなかった。
3着に敗れた前走のスプリングSも見逃せない。前半5Fが63.2秒とGⅡとはおよそ思えない遅い流れの中、またもや3コーナーから早くもエンジンをかけマクっていく大味な競馬で進出。映像を見れば分かるとおり外7頭目ほどを進むほどのロスがあった。
結果的に、ツーテンポほど仕掛けを待ったヒューイットソン騎手のガロアクリークが勝ち切る中、サクセッションも最後まで止まらず、ガロアクリークに次ぐ上がり3F2位をマーク。ペース・脚質の上でベストとはいえないレース運びで強い内容だった。
コメントの信頼度に定評のあるマーフィー騎手がジュニアC時に「前走(デイリー杯2歳S・6着)とは馬が違う」と話すなど、派手な活躍こそないものの着実に階段を上ってきた馬。力自体はGⅠの舞台でも決して見劣らない。
さらにNHKマイルC最多タイの3勝の経験があり、誰よりもこのレースの乗り方を知っている横山典弘騎手を確保できたことも大きい。この鞍上は前走辛勝もしくは敗れてから結果を出す課題修正能力の高いジョッキーだ。このレースで鞍上が6番人気以内に支持され、前走0.0秒差勝ちか敗れた馬に騎乗したケースは過去で7度あるが、
(1)1996年ツクバシンフォニー・2番人気2着
(2)1999年シンボリインディ・6番人気1着
(3)2002年アグネスソニック・5番人気2着
(4)2003年エイシンツルギザン・5番人気2着
(5)2009年レッドスパーダ・5番人気2着
(6)2015年クラリティスカイ・3番人気1着
(7)2017年アエロリット・2番人気1着
なんと全て連対。おそろしいほど何度も何度も何度も連対させている。先行一辺倒だったシンボリインディを追込に回し、レースセンスを武器にインで一頭一頭交わしながらロスなく勝たせたり、熱発明けが懸念されたレッドスパーダは好位から脚を伸ばしきっちり2着。クラリティスカイでは逃げた皐月賞5着から先行策を取り、力勝負で勝たせた。馬の能力・性質を正確に判断した騎乗は馬券を買う側にとってありがたいことこの上ない。
サクセッションもデイリー杯を含めた2度の敗戦で課題は見つかっており、あとはそれを踏まえたレースプランを組めばいい。負けたことがあるというのは人馬にとって大きな財産となる。GⅠで好走歴のある馬、無敗組を差し置いてまでこの馬を推奨するのには以上の理由がある。
サトノインプレッサは勝率100%?
残る3頭の有力馬にも触れておきたい。まずはタイセイビジョン。前半5Fが57.2秒と、NHKマイルで想定されるハイペースだった朝日杯FSでは差し脚を伸ばして2着を確保。このペースを先行して勝った化け物のサリオスを考えれば、並の年なら勝っていた内容だった。
2歳時の京王杯2歳Sで東京コースを経験しており、さらにレコード勝ちと高速馬場への適性も十分。対決経験のあるNHKマイルC出走馬には一回も先着を許しておらず、2度の騎乗経験がある鞍上は昨年のレースで14番人気ケイデンスコールを2着に持ってきた。あらゆる面において評価を下げる材料がない。本命党の方には懸念が少ない軸馬として推奨したい。
無敗馬ルフトシュトロームはトライアルのニュージーランドトロフィー(以下NZT)を快勝。前半5F57.6秒の流れで後方でじっと構え、4コーナーでウイングレイテストと接触、バランスを崩しながらも立て直し、好タイムで勝ち切ったレースぶりは強かった。しかし、3戦全てが中山コースと東京コースどころか左回りの経験がなく、そもそもNZTを差して勝った馬はNHKマイルCでの好走例が少ない。
4角4番手以下からNZTを勝ち、NHKマイルに出走した馬は14頭いるが、2004年以降の9頭はいずれも掲示板にすら入れていない。もちろん人気がなかったわけではなく、該当馬にはシーキングザダイヤ、サンカルロ、ヤマカツエースとのちにGⅠで活躍する馬も名を連ねており、相性の悪さがうかがえる(ちなみに、該当条件で勝ったのはシーキングザパールとエルコンドルパサーのみ)。中山のレースぶりがそのまま東京でのパフォーマンスにつながらない可能性は大いにある。
もう一頭の無敗馬サトノインプレッサは、3戦全てが道悪とかなり珍しいキャリアでの参戦。毎日杯では各馬が直線で追い始める中鞍上の武豊騎手はじっと持ったままで、進路が狭くなるシーンもありながら抜ければあっさり、着差以上の完勝だった。
芝マイルの持ちタイム最速は1:36.8と単純比較が難しいものの、毎日杯の勝ち時計1:47.9は3歳3月以前かつ稍重以下の馬場状態に限定すると同コース歴代2位タイ。単なる道悪の鬼かもしれないが高速決着に対応できる下地はあるし、馬場が渋れば自然と浮上してくる。
毎日杯勝ち馬はほとんどがクラシック路線に乗るため、NHKマイルCに出走するケースは少ない。だが、このうちサトノインプレッサと同様、毎日杯で2着に3/4馬身以上の差をつけて勝ち、駒を進めた馬は5頭いた。古い順にタイキフォーチュン、クロフネ、キングカメハメハにディープスカイ、ダノンシャンティで、全頭勝っている。毎日杯は隠れトライアルなのだ。矢作師も素質を評価するこの馬が、偉大なる先輩たちの系譜に6勝目を加えるかもしれない。
穴馬では稍重馬場だったアーリントンCを前半5F57.6秒で通過と、向かない流れから3着に粘ったプリンスリターン。デビュー以来、原田和真騎手が手綱を取り、函館2歳S3着を皮切りに重賞戦線を賑わせてきた。
朝日杯FSでは、タイセイビジョンから0.4秒差の5着だった。4角でごちゃつき、リズムを欠くシーンや進路取りなどを加味すれば、もう少し詰められただろう。能力は確かだが、何度好走しても人気が出にくいタイプ。レシステンシアの番手から、しぶとく脚を伸ばしても差しに回しても力は足りるはず。3連系馬券では確実に拾っておきたい。NZTを先行して敗れたものの、リステッド競走で好走を続けるハーモニーマゼランも狙える。
対照的に穴人気が予想される前走ファルコンS組は中京芝1400mでの施行となった2012年以来【0-1-0-13】と微妙。同様に評価されていたグルーヴィットやトウショウドラフタ、サトノルパン、ヘニーハウンドなどが着外に敗れている。
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