【皐月賞】ディープインパクトとドゥラメンテに肩を並べた!真の実力を見せたコントレイル
勝木淳
ⒸSPAIA
荒れた芝が引き出したポテンシャル
一度も競馬場に行くことなく春の中山開催が終わる。競馬場の空気を吸いたい気持ちを我慢しつつ、いつ行けるのかと気を揉むうちに桜が見事に咲いては散り、青葉が枯れ木を覆いゆく。誰しもが未体験の春は進み、皐月賞を迎えた。
拭いきれない見えないストレスから解放される競馬がある週末、どうか我々に変わらぬ世界を見せ続けてほしい。ウイルスが世界を変質させようと、競馬場は変わらずに時の歩みを刻んでいってもらいたい。4月3週目に皐月賞がある。その事実だけが我々の救いになる。
第80回皐月賞は無観客ながら無事にレースを終えた。勝ったのは1番人気コントレイル。18頭立ての1番枠、ふたつ前の鹿野山特別の結果を見ても明らかに内側の馬場は悪く、外差しが決まる設定では明らかな不利。
インで包まれて進路を失うという不安さえ頭をよぎる。しかし、この内側が悪かったことでコントレイルは秘めていた能力を解放させた。ホープフルSまでは折り合いに気をつかいつつ、先行させて馬の行く気を逸らせるような競馬、どこか正攻法でお行儀のいい競馬は強さに欠く印象ととらえる向きもあった。
だが、この日はスタートこそ出たが、荒れた内側でダッシュ力がつかず、結果的に初角を中団より後ろで迎え、馬群でごちゃつくような場面もあった。下げたというより下がってしまったことで最後の爆発力を生んだ。
馬群で揉まれたことで折り合いはつき、3角手前でマイラプソディが進出、直後のダーリントンホールがそれに一瞬だけ呼応できなかったこでコントレイルが外に出るスペースが生まれた。それを見逃さない福永祐一騎手の判断がすべて。
外に出てストレスから解放されたコントレイルは馬なりでマイラプソディやサトノフラッグに並び、4角では7、8頭外を悠然と回る。これまでの正攻法では見えなかったコントレイルの真の実力が引き出された。
コーナーリング操作から福永騎手が追い出しに入ったのは残り200m手前。前にいるサリオスに瞬発力で並びかけ、叩き合いに臆することなく競り勝った。完勝以外に言葉はない。デビューから皐月賞まで全レース上がり最速はディープインパクトとドゥラメンテとこの馬しかいない。小回りコースで大外を回り上がり34秒9は圧巻。昨夏この世を去ったディープインパクトがサンデーサイレンス末期の傑作だったようにコントレイルはその後継ではないかとさえ予感させる。
文句なしだった2着サリオス
コントレイルの強さ際立つ皐月賞だったが、2着サリオスは東京でこそのハーツクライ産駒の大型馬。朝日杯FSから直行、初の2000m戦という状況を考えれば十分な内容。
その朝日杯FSではライアン・ムーア騎手が渾身のアクションで動かしていたようにマイラーにはとても見えない俊敏性に欠く馬だったが、2000m戦がズバリハマった印象。
終始馬群の内を進みながら、4角のコーナリングで空いたスペースをきっちり確保するあたり、ダミアン・レーンの騎乗は満点だった。抜けてからは馬場のいい外目にウインカーネリアンを交わしながら巧みに持ち出した。
さすがはダミアン・レーン、憎らしいほど攻め手に無駄がない。ただ、そこにコントレイルがいた。ただそれだけだった。着差はたった半馬身で逆転への望みはある。ただし皐月賞は完璧な競馬。勝つにはコントレイルが見せたような奥に眠る力を引き出せるか否かにかかっている。
クラシック第一弾が終わった。まだまだここに出走していない素質馬も控えている。日本ダービーは皐月賞のゴール後にあると言った先人がいる。皐月賞が日本ダービーに結びつくのであれば、コントレイルの2冠は目前ではないか。皐月賞に出ていない馬がそれを阻むか、サリオスが皐月賞の結果を覆すのか。早くもダービーへの道が見えてくる。どうか変わらず競馬がそこにあることを祈る。
ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて「
築地と競馬と」でグランプリ受賞。中山競馬場のパドックに出没。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌「優駿」にて記事を執筆。
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