【皐月賞】コントレイル・サリオス・サトノフラッグで抜け出すのは?東大HCが「ペースと脚質」を徹底分析

東大ホースメンクラブ

中山2000m散布図ⒸSPAIA

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桜花賞と同じく ペースと脚質をチェック

今週末は2020年牡馬クラシック初戦、皐月賞。巨体を揺らすパワフルな走りで朝日杯FSを圧勝したサリオス、東スポ杯2歳Sで芝1800mの2歳日本レコードを樹立し、ホープフルSを軽々と制したコントレイルの2歳王者2頭に、父を彷彿とさせるキレで弥生賞を完勝したサトノフラッグを加えた3強ムードだが、京成杯を鮮やかに差し切ったクリスタルブラック、ホープフルS2着など堅実な走りを見せるヴェルトライゼンデ、そのヴェルトライゼンデをスプリングSで破ったガロアクリークなどの伏兵も虎視淡々と一冠目を狙っている。

今週も先週の桜花賞と同じく「ペースと脚質」をチェックする。桜花賞では推奨馬3頭のうち、人気馬ながらレシステンシアとデアリングタクトがきっちりワンツーを決めてくれた。今週もぜひ参考にしていただきたい(使用するデータは2015年4月18日〜2020年4月11日)。

「皐月賞ポジション」という概念

先週のコラム同様、ペースと脚質の相関関係を調べるにあたり「脚質ポイント」という概念を用いる。これは馬券になった馬の脚質別に、逃げ:0ポイント、先行:2ポイント、差し:3ポイント、追い込み(マクリも含む):4ポイントと設定する試みだ。たとえば、「先行・差し・追い込み」の決着になった場合、3着以内の脚質ポイント平均は(2+3+4)/3=3ポイントとなる。

早速中山芝2000mのデータを見てみよう。この散布図は横軸を逃げ馬の前半5Fタイム、縦軸を3着以内の脚質ポイント平均としたものだ。同じ前半3Fタイム・同じ脚質ポイント平均となるレースが存在するため、点が複数重なる場合は濃くしてある。点が下にあれば逃げ・先行有利、上にあれば差し・追い込み有利になる。

中山芝2000mは前半5F60秒=平均ペースという等式が当てはまらないコースで、重賞でも60秒を上回る通過タイムが珍しくない。実際、古馬のレースでの前半5F通過平均は61.48秒とかなり遅く、古馬オープンクラスでも60.66秒とやはりイメージとズレがある。留意しておきたい重要なポイントだ。

先週に挙げた阪神芝1600mの散布図と異なり、平均的な61秒〜62秒での通過タイムでは下部分にも濃い点が集まっている。この条件下で逃げ・先行馬が2頭以上馬券に絡む確率は6割を超えており、平均ペースなら前にアドバンテージがある。61秒より速い厳しいペースとなった65レースについてもレース傾向はがらりとは変わらず、ほぼ半数にあたる29レースで逃げ・先行馬が2頭以上馬券になっていた。

中山競馬場の路盤改修工事が行われた2015年以降の皐月賞はいずれも前半5Fが59.2秒以下というタフなラップが刻まれているが、このうち2016年のレース(58.4秒というさすがにやり過ぎのハイペースだった)を除く4レースで3着以内を占めた12頭はいずれも4角7番手以内だった。近年の皐月賞は前にいなければ勝負に加わることすらできない、遠い昔の多頭数ダービーを彷彿とさせる状況になっている。「ダービーポジション」ならぬ「皐月賞ポジション」を意識して馬券を組み立てていきたい。

3強は甲乙つけがたいが……

ではどの馬が逃げ、どのようなペースになるのか。

皐月賞出走馬・逃げが予想される馬ⒸSPAIA

皐月賞に出走を予定している19頭のうち、ダートを除くマイルより長い距離のレースで逃げたことのある馬は4頭。このうちコルテジアとビターエンダーは緩いペースで押し出された形の逃げで、何がなんでもハナを主張するタイプではない(特にコルテジアは番手に控えたきさらぎ賞で勝っている)。したがって全4レース中3レースで逃げたウインカーネリアンかキメラヴェリテが逃げ候補だが、前者は前半1Fタイムを見ればわかるように特段テンの脚が速いタイプではない。

対してキメラヴェリテは芝発走となる阪神ダ1400mの2歳1勝クラスでも逃げたようにスタートダッシュが速く、前走の若葉Sでマークした前半5F59.9も締まったペース。この楽ではない流れの中で好タイムの2着に好走したこともあり、よほど厳しい枠に入らない限りこの馬が同様のラップを刻んで逃げると予想する。

キメラヴェリテがつくる淀みない流れを味方につけられるのは果たしてどの馬か。まずは3強について検討していく。2歳マイル王者サリオスが勝った前走の朝日杯FSは逃げたビアンフェが前半3F33.8の超ハイペースで飛ばした。このタイムは過去5年の阪神芝1600mで行われた全レースの中でも2番目に速く(ちなみに1位はレシステンシアが勝った阪神JF。何度も書くが、このペースで突き放すのだから化け物である)、前半5F57.2は最速だった。

サリオスはビアンフェを見る形で3番手を追走と苦しい展開ながら、最後の直線では先行勢からただ1頭抜け出して快勝。サリオスを除く6着までが全頭4角8番手以下と典型的な差し追い込みレースだったことが本馬の優秀さを物語る。初の中山、初の2000mと経験不足を不安視する方もいるだろうが、2000mの重賞は距離経験がない馬のほうが走るというデータがある上、同様のケースだった2017年のアルアイン、2015年のドゥラメンテはこのレースを勝った。素直にパフォーマンスを評価したい。

《関連データ》「距離経験」は武器になるのか?東大ホースメンクラブが徹底分析

2歳中距離王者コントレイルは前半5F58.8と締まったペース(過去5年の2歳限定・東京芝1800mで2番目に速い)だった東スポ杯2歳Sでスーパーレコードを樹立と時計の裏付けがあり、暮れのホープフルSは時計的には平凡だったものの、詰まらなければ勝てるといわんばかりの余裕あるレース運びから、直線ほとんどムチを使うことなく抜け出す着差以上の勝ちっぷり。ここからの直行ローテは昨年の皐月賞勝ち馬サートゥルナーリアの姿が重なる。

弥生賞勝ち馬サトノフラッグが2歳コースレコードで勝った東京芝2000mの未勝利戦の前半5F59.3は、これまた過去5年の2歳限定・東京芝2000mで2番目に速い。中山芝2000mの2戦はいずれも前半5F61秒台と遅い流れだったがともに勝ち切っており、コース適性に不安はない。唯一の不安材料は3馬身差で快勝した1月のレース後、騎乗したマーフィー騎手が「2000mより2400mの方が合う」とコメントしたことか。

マーフィー騎手といえばコパノキッキングで勝った根岸S後にフェブラリーSへの距離延長を疑問視するコメントを出すなど、距離適性に関する評価はシビアかつ正確。能力でねじ伏せてしまう可能性ももちろん十分あるが、馬券軸としての信頼度でいえば上記2頭にわずかに劣るともいえる。

穴馬から注目しておきたいのは前述したとおり厳しい流れの若葉Sを2着に好走したキメラヴェリテ。走破タイム1:58.9は出走メンバー中持ちタイム最速と優秀で、人気に関わらず押さえておきたい。

《ライタープロフィール》
東大ホースメンクラブ
約30年にわたる伝統をもつ東京大学の競馬サークル。現役東大生が日夜さまざまな角度から競馬を研究している。現在「東大ホースメンクラブの愉快な仲間たちのブログ」で予想を公開中。

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