【高松宮記念】ただひたすらに前へ モズスーパーフレアの勝因とは?

勝木淳

高松宮記念位置取りインフォグラフィックⒸSPAIA

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ざわめきが止まない週末

高松宮記念位置取りインフォグラフィック

春になろうかという3月最終日曜日は関東でよもやの雪景色のため中山競馬は3R以降が中止、前夜に予定されていたドバイワールドカップデーも中止、史上初の無観客開催で行われるGⅠ高松宮記念は1位入線の15番人気クリノガウディーが走行妨害で4着降着。競馬ファンの胸のうち、そのざわめきが聞こえてくるような週末だった。

ウイルスの蔓延がすべての元凶であるわけではないが、非日常を生きる我々の心に不安を掻き立てるウイルスには退散願いたいところ。いま、人類すべてが試されている。

競馬はとにかく前に行くこと

第50回高松宮記念はGⅠ馬6頭が参戦、スプリント路線の常連に加え桜花賞馬グランアレグリアを筆頭に1200m戦未経験の新規参入組が混ざり、比較がしにくいファン泣かせの難問。そこに前夜から午前中まで降った雨の影響が重なり馬場読みまで困難な状況となった。

馬場の影響が大きく、レースはスタートで決まっていた。好発を切ったのはダイアトニック、クリノガウディー、モズスーパーフレア。結果はこの3頭が3、4、1着。スプリント戦でのスタートの重要性が手に取るようにわかる一戦だった。

繰り上がり1着モズスーパーフレアの勝因はなにか。ズバリ2着に残ったことである。クリノガウディーの降着があっても4着が1着になるわけがなく2着でなければ勝者にはなれない。そう、2着だったことが勝因なのだ。ではなぜ2着に残れたのか。それは先手を奪ったからだ。競馬でなにかを起こせるとすれば前に行った時だ。ハイペースで後方一気が届くのはハマったときで、能動的にそれを作れるわけではない。競馬を支配するのは前に行く馬、とりわけ先手を奪った馬がレースを支配する。欧州ではペースメーカーという馬を出走させるほど支配者たる先頭を走る馬は重要である。

モズスーパーフレアは昨年の高松宮記念では途中からハナを奪うという中途半端な競馬で15着大敗。その後はスプリンターズSでこのレース1番人気のタワーオブロンドンの2着があったものの、秋以降は1200m重賞で8、4着、ファンにちょっと終わったっぽいと思われたのか9番人気だった。

昨年の結果を踏まえ、徹底先行を決め込むべく自厩舎の松若風馬騎手を乗せ続けた音無調教師の執念が実った。

徹底先行の逃げ馬に競りかけるのは無謀というもので、この日も2番手セイウンコウセイは一切追いかけようとしなかった。番手の馬がそう決め込めば、その後ろはもう手出しはできない。そうしてモズスーパーフレアにとって願ってもない単騎マイペースに持ち込めた。前半600m34秒2はかつて32秒台のダッシュ力を繰り出したモズスーパーフレアにとっては楽な流れだった。最後の直線ではセイウンコウセイを振り切り、一旦は堂々先頭。その貯金が最後に2着に残した。

あえてスプリント戦に迎合しなかったグランアレグリア

降着となったクリノガウディー、被害を受けたダイアトニックはいずれも好位集団。速くないペースと適性外の悪い馬場、未体験の1200m戦、これらを考えればグランアレグリアの2着は強さを示したものといっていい。

伸びて来ない後方勢でただ1頭だけ猛然と追い込んできた。あえて1200m戦に付き合わなかった乗り方はマイルに伸びるだろう今後の路線に向けて理想的な競馬だった。スタート直後の2ハロン目にほぼ毎回引っかかる前進気勢の強い馬だけに1200m戦でその気性面をガス抜きさせつつ、悪化させずにステップレースを終えた藤沢和雄調教師の戦略はさすがとしかいえない。牝馬マイル路線の有力ステップレースをパスするであろうグランアレグリアはそれでも主役であり続けるだろう。

降着クリノガウディーのひたむきさ

グランアレグリア同様に1200m戦初出走だったクリノガウディーは中京記念2着という実績、父スクリーンヒーローという血統背景から道悪の高松宮記念は自身にとって最後かもしれない好機だったかもしれない。

ここまで主な勝ち鞍は2歳新馬だけ、いわゆる最強の1勝馬。GⅠ2着、GⅢ2、3着の善戦マンが和田竜二騎手の手綱によって蘇った。直線の脚色はモズスーパーフレアを上回り、先頭に立とうというところで内にササり、間を突っ込んできたダイアトニックとモズスーパーフレアに不利を与えてしまった。左に行く癖があることを分かっていた和田騎手は直線に入るとすぐに右の手綱を引っ張って矯正していたが、それも効かずにインに行ってしまった。矯正動作が足りなかったというジャッジだろうが、千載一遇のチャンスを逃した陣営にとって切ない結果となってしまった。加害者となってしまった和田騎手もレース後の実直なコメントに人柄が滲む。少しずつ一歩ずつひたむきに日々取り組む人々に是非とも歓喜の花を咲かせてもらいたい。

こんな世の中だからこそ、みんな明るい話題に飢えている。無観客とはいえ、通常と変わらず日程を消化している唯一といっていい存在である競馬には、そんな使命もまたあるのだろう。

ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて「築地と競馬と」でグランプリ受賞。中山競馬場のパドックに出没。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌「優駿」にて記事を執筆。

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