【ジャパンC回顧】適性を超越した王者の底力 欧州年度代表馬カランダガン「レコードV」の衝撃

勝木淳

2025年ジャパンC、レース結果,ⒸSPAIA

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カランダガン、レコード更新V

秋の東京最後の大一番・ジャパンカップはフランス調教馬カランダガンが制し、欧州年度代表馬でレーティング世界一の実力を披露した。2着マスカレードボール、3着はダノンデサイルで決着した。

世界に追いつく日本。ジャパンCは日本競馬界の国際化を目指すなかで誕生。今年で45回目を迎えた。第1回メアジードーツからテイエムオペラオーが勝った第20回までは外国調教馬12勝、日本調教馬8勝。それが2001年から2024年までは2勝と22勝と、21世紀は図式が一変した。

これは日本の競馬がサンデーサイレンスの力と馬場管理技術の向上によってスピードを伸ばしていった影響が大きい。2018年にアーモンドアイが記録した2:20.6はその最たる例であり、外国馬の参戦はめっきり減った。

日本調教馬が凱旋門賞を筆頭に海外のビッグレースに盛んに遠征するようになり、ヨーロッパと日本の馬場適性の差について論じられるようになった。ヨーロッパの芝2400m路線チャンピオンはジャパンCで苦戦する。そんな結果が続き、我々はこれを定説としていた。

それだけに、2005年アルカセット以来になるヨーロッパ調教馬の優勝は考えさせられる。しかもカランダガンは勝利しただけではなく、2:20.3を打ち立ててアーモンドアイのレコードすら更新した。

カルティエ賞年度代表馬かつロンジンワールドベストレースホースランキング1位の欧州チャンピオンは、これで英仏日でGⅠ制覇。満場一致の世界王者がみせた「2:20.3」は競馬観を変えるほどの衝撃だった。

とはいえ、ヨーロッパから日本の軽い馬場と、日本からヨーロッパの起伏がある重い馬場では、同じ遠征でも若干ニュアンスが違う。強い馬が出走すれば勝てるという理論にも違和感をもつ。もしそうなら、日本馬はすでに凱旋門賞を勝っている。ベースは最強クラスであっても、その上でヨーロッパ仕様の走りを習得する必要はある。


感動を呼ぶラスト1、2完歩

レースはセイウンハーデスが先手をとり、34.5-46.0-57.6とラップを刻む。1200m通過が1:09.2、1600m通過は1:33.4と進んでいく。東京芝2400mでマイル戦並みのラップを刻めば、ラストはバテ比べになっておかしくない。

ところが、ラスト600mは11.8-11.5-11.3と加速ラップを描いた。4コーナーからゴールまで加速していくたびに脱落していく。非常に厳しい競馬になり、最後はカランダガンとマスカレードボールの2頭の世界に移っていった。

天皇賞(秋)を1:58.6で勝ったマスカレードボールと英チャンピオンステークスを2:03.1で制したカランダガンが競り合い、ゴール板でカランダガンが前に出た。

信じられない。だが、首を前に突き出したカランダガンのラスト1、2完歩にはチャンピオンの意地とプライドが込められていた。気力の勝利だ。もっとも苦しい場面で底力を発揮する。王者の定義そのものだ。真の王者は国もコースも馬場も問わない。適性を超える力を感じた。

ラスト1、2完歩の場面は鞍上ミカエル・バルザローナのステッキワークも華麗だった。左に体重をかけながら右ステッキを放ち、マスカレードボールを意識させ、最後はステッキを何度も見せて、カランダガンを前へ押し出す。世界の名手の手綱さばきもまたジャパンCの魅力。今回はこれが見られただけでも満足だ。

バルザローナ騎手は昨年まで主戦を務めたゴドルフィンを離れ、今年からアガ・カーン殿下と専属契約を結んだ。2月に殿下が亡くなってからもダリズで凱旋門賞を勝ち、カランダガンでGⅠ4連勝と専属騎手としての役目を果たし続けている。

ちなみに、2着に敗れたマスカレードボールに騎乗するクリストフ・ルメール騎手もかつてアガ・カーン殿下と優先騎乗契約を結んでおり、その契約解除が日本移籍のきっかけになったことでも知られる。まるでアガ・カーン殿下の見えない力が働いたようでもあった。


来年の主役たち

その2着マスカレードボールは、カランダガンとの競り合いのなかで一旦前に出た場面もあった。上がり600mはカランダガンより0.2だけ遅い33.4。互角といっていい。

勝負所の直前で気を抜くなど、まだまだ改善の余地を残している。この激闘を経験し、来年はさらに逞しさを増すだろう。3歳の天皇賞(秋)勝ち馬がジャパンCを勝てば史上初だった。その記録にアタマ差まで迫った事実からも、来年の中距離戦線の中心を担う存在であることは間違いない。

3着ダノンデサイルは決して完調とはいえないなかで、ラスト200mまで見せ場をつくった。最後の11.3で脱落した形だが、ここまで戦えれば次はさらによくなる。道中はカランダガンに外を塞がれ、伸び伸び走れるスペースをつくらせてもらえなかった。入線後の落馬は人馬ともに心配だが、順調ならタイトルの上積みは近い。

状態面でいえば、4着クロワデュノールも臨戦過程を考えると健闘した。一旦はマスカレードボール、カランダガンと並ぶ場面もあった。こちらも最後の11.3で置かれたが、それまでの戦いをみれば十分。さすがダービー馬。来年はマスカレードボールに借りを返してほしい。


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《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『名馬コレクション 伝説のグランプリホース』(ガイドワークス)に寄稿。

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