【マイルCS回顧】ジャンタルマンタルが史上初の偉業 ライバル寄せ付けない王者の完勝劇

勝木淳

2025年マイルCS、レース結果,ⒸSPAIA

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史上最強マイラーの誕生

秋のマイル王者決定戦マイルCSはジャンタルマンタルが制し、春秋マイルGⅠ制覇を達成。2着ガイアフォース、3着ウォーターリヒトで決着した。

JRA史上、朝日杯FS、NHKマイルC、安田記念、マイルCSすべてを勝利した馬はいない。ジャンタルマンタルが達成した牡馬が出走できる芝マイルGⅠ完全制覇という記録は偉業のなかの偉業といっていい。

4つのタイトルのうち2つは生涯で一度しか挑戦できないGⅠであり、さらに早期に才能の一端を披露し、その力をさらに伸ばしていかないと完全制覇は達成し得ない。ジャンタルマンタルはこれを成し遂げたのだ。日本競馬史上最強のマイラーと表現しても決して大袈裟ではない。むしろそう表現しなくてはならない存在だ。

みんなそれぞれに心の名マイラーが存在しており、目の前の馬がそれを超えることに抵抗する気持ちがあるかもしれないが、事実、この4つのマイルGⅠを勝ったのはジャンタルマンタルだけ。これを最強と言わずして、なにを基準にすればいいのだろう。


ライバルを寄せつけない王者のオーラ

ジャンタルマンタルのレース振りはまさに王者のそれだった。好発から好位3番手へ。トウシンマカオが後ろを離していく逃げは前半800m45.9と決して無茶なペースではない。ジャンタルマンタルら先行勢の体感はスローに近い。

つまり、各馬とも直線に向いた時点で、手応えは残っており、末脚は残っていた。それでも、ジャンタルマンタルに並ぶ場面はなかった。2、3着馬は1、2頭分後ろにつけ、射程圏内に入れながら進めており、それでも並ばせないのはジャンタルマンタルの脚力がゴールまで落ちなかったからだ。

並べそうで並べない。まるで結界が張り巡らされていたかのようで、これこそ王者のオーラ。真の王者はいい勝負に持ち込ませない。まさに非の打ちどころがない競馬だった。

これほどまでに完璧な王者になったポイントはどこにあるのか。推測だが、皐月賞でメイショウタバルが演出するハイペースを自ら動いて早めに先頭に立った経験と、3着に敗れた結果にあるのではないか。このレースで陣営はジャンタルマンタルの類まれなるマイル適性を確信し、以後、一貫してマイル戦だけに集中してきた。

中距離の流れを経験せず、マイル特有のスピード競馬に対応する走りを身につけてきたことが、これほどの超一流マイラーに育った要因の一つのように思えてならない。

幅広い適性も才能だが、スペシャリストもまた競馬の魅力。国内マイルGⅠを制した次はいったい、どこへ向かうのか。楽しみはまだ続いていく。


まさかの先行策で波乱を呼んだウォーターリヒト

2着ガイアフォースはジャンタルマンタルをマークする形でレースを進め、真っ向勝負を挑み、突き放された。1馬身3/4差の完敗だったが、富士Sで先着し、安田記念で2着に入った実績を胸に堂々たる勝負に出た結果であり、納得のレースだった。ただ、相手が悪かった。

以前は33秒台の末脚を要求される展開だと最後に甘さを見せる面があったが、安田記念以降はラスト3F33秒台前半であっても勝負圏内に入れるようになった。毛色や適性など母の父クロフネに似ていたが、イメージを変えつつある。6歳でそんな変化を見せるのも珍しく、ガイアフォースの成長力も特筆すべきものがある。

3着ウォーターリヒトは単勝130.2倍の15番人気という下馬評を覆し、穴を提供した。大方の評価は先行有利のCコース替わりで差し一手では厳しいというものだった。しかし、実際には内枠を利して先行し、ガイアフォースの背後をとり、あとを追うように抜けてきた。

前走富士Sは後方2番手から競馬しており、追い込み脚質だったはずと悲嘆にくれたファンは多かったにちがいない。大一番で大胆な脚質転換を成功させた高杉吏麒騎手の好プレーだった。

高杉騎手最大の魅力は芝の内枠。11月16日までのデータでみると、1、2枠の単勝回収率はそれぞれ155%、201%と高く、好配当のサイン。今回は残念ながら味方につけられなかった方も、芝の内枠で狙い、大きな馬券をとってほしい。

2025年マイルCS、レース回顧,ⒸSPAIA


《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『名馬コレクション 伝説のグランプリホース』(ガイドワークス)に寄稿。

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