【エリザベス女王杯回顧】レガレイラが見せつけた格の違い 史上初“牝馬の有馬記念連覇”へ高まる期待

勝木淳

2025年エリザベス女王杯、レース結果,ⒸSPAIA

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持続力勝負なら負けないレガレイラ

秋の牝馬頂上決戦エリザベス女王杯はレガレイラが制し、GⅠ3勝目。2着パラディレーヌ、3着ライラックで決着した。

レガレイラはこれまでホープフルステークス、有馬記念と牡馬混合のGⅠを勝ち、重賞タイトルもオールカマーの1勝なので、牝馬限定戦の勝ち鞍がない。不思議な気もするが、実は名牝にはこんなタイプが案外多い。

また、勝ち鞍は新馬を除いてすべて中山であり、“中山専用”という声もあった。これらレガレイラにつきまとうものはエリザベス女王杯制覇で消え去っていった。

レガレイラの勝利には、牝馬限定と牡馬混合の適性の差が分かりやすくあらわれている。牡馬相手に強くても、牝馬相手で取りこぼすというのは、牝馬特有の瞬発力より牡馬に負けない持続力があるからではないか。

勝利時の上がり600mは34.3、35.0、34.9、34.0で今回も34.2と、33秒台はない。決して末脚の限界ではなく、32~33秒台を記録したことはあるが、その着順は3、6、5、5着。軽さ勝負では分が悪い。

一方でそれを補うに余りある持続力の持ち主であり、牝馬っぽさがない。馬体や顔つきは牝馬らしいが、競馬の内容は外見とは裏腹で力強い。これも魅力だ。


有馬記念連覇なら史上初の偉業

今回はじめて牝馬限定戦で勝てたのは、得意の持続力を問う流れになったからでもある。

先手をとったエリカエクスプレスは、正面スタンド前の攻防で極力スイッチが入らないよう慎重に進めていった。行けるなら行くが、無理はしない。武豊騎手の挙動には明確な意図がみえた。

内のシンリョクカも気になったが、その後ろにいたセキトバイーストや外から遅れてやってきたケリフレッドアスクにも注意を払い、その結果2ハロン目で10.7を刻んだ。

直近10年でみても、2ハロン目が10秒台だったのは阪神で行われた21、22年と、京都だと24年の計3回だけ。昨年のスタニングローズを除き、この地点で前にいた馬はみんな着順を落とした。

競走馬は11秒前後で乳酸値が大きく上がり、速筋を導入してスピードに対応する。2200mを走るなかで、序盤に10秒台を刻むのは相当苦しいことだ。エリカエクスプレスの鞍上・武豊騎手としては、もう少し楽に行きたかっただろう。さすがに秋華賞2着でマークは厳しくなった。

とはいえ、その後はコーナーでペースを落として12秒台を刻んでおり、かつてと比べると、格段に大人の走りができるようになった。

1000m通過59.9は、エリカエクスプレスとしてはかなりゆっくり。だからこそ、単純な上がり勝負に持ち込ませないよう早めにペースを上げる。残り800mから11.8-11.6-11.6-11.7とラップが刻まれ、持続力勝負の流れへ誘った。レガレイラが得意とする流れだ。

34秒台の末脚で差し切れる流れではあったものの、単に流れが向いただけではない。道中は中団外目でピタリと折り合い、唸るような手応えで外を回ってきた。脚力が一枚上と言わざるを得ない。オールカマーに続き、格の違いを見せつけるかのような勝利だった。

こうなれば当然、有馬記念連覇が視野に入る。過去に達成したのはスピードシンボリ、シンボリルドルフ、グラスワンダー、シンボリクリスエスの4頭。牝馬が達成すれば史上初の快挙だ。

もちろん、まずは体調万全でレース当日を迎えなければならず、簡単な道ではないが、ぜひとも挑戦してほしい。


完璧だったパラディレーヌ

2着パラディレーヌは最内枠から内に潜り込み、4コーナーで先行勢の外に出て、抜け出すという完璧な競馬だった。これ以上ない競馬で勝てないのは相手が悪かったと言わざるを得ない。

こちらもどちらかというと持続力志向であり、500kgを超える馬体をみても、牡馬相手の重賞で楽しみがありそうだ。

3着ライラックは4年連続出走で2、4、6、3着。初挑戦時、2着パラディレーヌはまだ当歳馬だった。本当に偉い牝馬だ。

今回は2着に入った2022年と同じく持続力で対抗できる流れになった。末一手の展開待ちの馬だが、展開がハマりさえすれば上位に顔を出すのは、状態面が下降していない証拠だ。上がり600mはレガレイラと同じ最速34.2だった。

ライラックに交わされた4着リンクスティップは収得賞金1200万円であり、登録当初は除外候補だった。鞍上がクリスチャン・デムーロ騎手だったとはいえ2番人気は少々やり過ぎにみえたが、あわやの場面をつくった。1600万下に出走できる身であり、自己条件なら確勝級ではないか。


2025年エリザベス女王杯、レース回顧,ⒸSPAIA


《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『もう一つの引退馬伝説2 関係者が語るあの馬たちのその後』(マイクロマガジン社)に寄稿。

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